研究課題/領域番号 |
22K02459
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
滝口 圭子 金沢大学, 学校教育系, 教授 (60368793)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 乳幼児 / 物理的な現象 / 科学的な現象 / 因果関係 / 擬人的把握 / 素朴理論 / 保育 / STEAM教育 |
研究実績の概要 |
令和4(2022)年度の研究の目的は,(1)本研究の仮説の具体化,(2)科学の思考と試行における個別性と協同性の分析,(3)素朴理論の内実の分析であった。 (1)本研究の仮説は,第一に,時間的,距離的に近い因果関係であれば,3歳未満児も関係を想定しながら探索する。年齢が上がるほど,因果関係の時間や距離が遠くなる。また,0歳児の「試しながら試す」試行から,5歳児の「現象の因果関係を推測し,検証することを楽しむ」試行へと推移する。第二に,自由遊び等での自然発生的な科学の保育実践と,保育者が意図的にしかける実践について,共通する意義と個別の意義がある。両者とも子どもの年齢によって保育者の関わり方が異なる。第三に,(3)素朴理論の内実の分析の内容と関連するが,3歳未満児は,物理的な現象に意図性を帰属するが,擬人的把握が顕著に現れることはない。3歳以上になると,意図性を踏まえた擬人的把握が認められ,関連する言語表現も登場する。物理的な現象に対する(本能的,文化的な)擬人的把握が,現象の探究に影響を及ぼすことがある。 (2)科学の思考と試行における個別性と協同性は,第一に,物理的な現象との出会いは,当事者の個別の経験から始まる。保育者の意図的な実践では,各自が専用の道具等を用いての探索が望ましい。第二に,個別の探索の結果,協同性がもたらされる。当事者が探索の成果を周囲に報告しようと働きかける場合と,当事者の試行に興味を抱いた周囲が当事者に働きかける場合がある。第三に,3歳以上児になると,試行や思考に対する周囲の評価を認識するようになり,独自の探索と成果の公表に抵抗を示す場合があるが,保育者の集団づくりを通しての変容が可能である。 以上の研究成果の一部を,日本発達心理学会第34回大会(ラウンドテーブル)(2023年3月3日-5日,立命館大学大阪いばらきキャンパス)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4(2022)年度の研究計画は,(1)本研究の仮説の具体化,(2)科学の思考と試行における個別性と協同性の分析,(3)素朴理論の内実の分析であった。 (1)は,「研究業績の概要」欄に加え,①「探究の内実」と②「試行と思考の関連性」を措定した。①「探究の内実」は,0歳児は「(本能的に,思わず)繰り返す」,1歳児は「考えて繰り返す」,2歳児は「考えて工夫して繰り返す,興味を持っている」,3歳児は「現象の内面や背景を探る,興味を持っている」, 4歳児は「現象の内面や背景を探ることを楽しむ」,5歳児は「現象の内面や背景,因果関係を推測し,検証することを楽しむ」とした。②「試行と思考の関連性」は,0歳児は「試しながら試す」,1歳児は「(試しながら試す)試しながら考える」,2歳児は「(試しながら考える)考えながら試す」,3歳児は「(試しながら考える,考えながら試す)考えながら考える」,4歳児は「(3歳児の内容に加えて)考えてから試す」,5歳児は「(4歳児の内容に加えて)試してみて修正する」と想定した。 幼年期の科学体験を支える素材の「光」について,0歳児女児が布絵本の鏡部分に反射した光の模様を見つけ,自分で絵本を振った事例から,「鏡と模様の因果または相関関係の推測」「自分の身体を行使しての対象への働きかけ」がうかがえる。1歳児女児が,たらいの水に反射した光をスプーンですくおうとした事例は,「道具を使用しての対象への働きかけ」を示している。2歳児は「光と陰」「光と影」の事例や,自然物(砂,水,天気等),人工物(磁石,スポンジ等),現象(音,色の変化等)に働きかける事例が登場した。3歳児は,天井に映った光の模様を「おばけ」と表現しており,「動きのある現象への生命性の付与(擬人化)」が認められた。現在のところ,ほぼ研究計画通りに進んでおり,本研究課題は概ね順調に進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
令和5(2023)年度は,令和4(2022)年度の成果を踏まえつつ,(1)科学の思考と試行における個別性と協同性の分析,(2)素朴理論の内実の分析に取り組む。(1)については,引き続き,K市保育士会第2及び第10ブロックの保育所・園,認定こども園の幼児を対象とする。本研究の第一の仮説(時間的,距離的に近い因果関係であれば,3歳未満児も関係を想定しながら探索する,年齢が上がるほど因果関係の時間や距離が遠くなる)については,個別の実験調査,観察調査,事例分析から検証する。第二の仮説(自然発生的な科学の保育実践と保育者が意図的にしかける実践には,共通する意義と個別の意義がある)については,観察調査及び事例分析から検証する。日本発達心理学会第33回大会「保育のなかの科学2:かがく遊びの可能性を探る」(ラウンドテーブル,2022年3月),日本発達心理学会第34回大会「保育のなかの科学3:3歳前後の子どもたちと光との出会い」(ラウンドテーブル,2023年3月)に,話題提供及び指定討論として登壇いただいた研究者による実践の参観も考えている。第三の仮説(3歳未満児は物理的な現象に意図性を帰属する,3歳以上になると意図性を踏まえた擬人的把握が認められる)については,個別の実験調査,観察調査,事例分析から検証する。 日本心理学会第87回大会(2023年9月15日-17日,神戸国際会議場)のポスター発表,日本乳幼児教育学会第33回大会(2023年12月9日-10日,名古屋市立大学)の自主シンポジウム,日本発達心理学会第35回大会(2024年3月)のポスター発表及びラウンドテーブルにおいて,研究成果の一部を公表する。更に,金沢市保育士等キャリアアップ研修(2023年8月)や石川県保育士等キャリアアップ研修(2023年6月)において研究成果を紹介し,現場関係者に直接的に還元する機会を確保する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4(2022)年度に,本研究の成果の一部を保育現場に直接的に還元することを目指し,保育者が容易に参照また活用することが可能なカード状の資料(A4版,裏表,カラー印刷)を作成,印刷し,I県内の保育所・園,幼稚園,認定こども園への送付を予定していた。以上の関連業務を委託する印刷業者の選定を経て,作業を進めていた。カード状の資料には,①乳幼児を対象とする保育における科学の定義,②STEAM教育の定義,③科学の保育実践の具体的な事例,④科学的な現象に遭遇した時の乳幼児の言動,⑤科学的な現象に遭遇した時の乳幼児に対する保育者の関わりが,カラーイラストとテキストで示されている。資料は0-2歳児版と3-5歳児版の2種類の作成を予定しており,上述の③,④,⑤については,0-2歳児版は6事例,3-5歳児版は7事例を取り上げている。 しかし,資料における情報の配置や構成,実践事例を1枚のイラストで描写する作業等において,印刷業者とのやり取りが難航し,令和4(2022)年度内に業務を終了することができなかった。そのため,カード状の資料の作成のために計上していた予算を,令和5(2023)年度に繰り越さざるを得ない事態が生じた。 令和5(2023)年度は,進行中であるカード状の資料の作成に引き続き取り組み,令和5(2023)年度内の本業務の完遂を目指し,更に計画的に作業を進める所存である。
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