本研究の目的は、学習者が自己を重ね合わせ易く、且つ生き方のモデルにし易い物語等を用いて、発達段階別にICT対応型の多読用教材を編み、小中高現場に発信することで「古典ばなれ」対策に資することにある。具体的には、災害や疾病、いじめや環境的不遇等、様々な苦難の中で逞しく生きる子ども像=〈苦難を乗り越える子ども物語〉を、活字化されていない新たな作品や、物語絵・写本影印等のビジュアル資料も含め、様々な時代から集成した短篇集形式のサイドリーダーを編む。 本研究の学術的意義は、教材自体を学習者にとって自身を重ね易い内容に歩み寄らせることで、古典そのものを多読させる仕掛けとする点、教材の多読により、読解力の向上のみならず、学習者自身の〈苦難〉への向き合い方を考えたり、それを乗り越える意欲を奮い立たせたりする機会が多く保証される点、それらがICT教育のメリットを活かしつつ、学習者の発達段階に応じて複数パターン提供できる点にある。 2022年度は、主に平安期までの作品を対象に、資料収集・分析と教材化を行った。記紀や源氏等の有名作品は勿論、松浦宮等の未注目の物語、及び蜻蛉、小右記等の日記も対象とした。指導案については、所属校の国語教育系授業の受講学生や教員志望学生、あるいは、学外研究会のメンバーとのディスカッションを通して多角的に検討を進めた。また、稀書本文や物語絵などの新資料は、本教材の個性・新奇性を強めるとともに、学習者の関心を高める重要な仕掛けとなるため、積極的な収集を心がけた。なお、新資料の一部について、論文の形で公開している。
|