研究課題/領域番号 |
22K02626
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
加藤 圭司 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (00224501)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 知識統合理論 / 深い学び / 中学校理科 / 生徒の思考プロセス / 対話 |
研究実績の概要 |
研究初年度である2022年度は、現行の学習指導要領が標榜する「主体的・対話的で深い学び」における「深い学び」の実現に関わって、Linn,M.(2006)が提唱した知識統合理論の中核に位置する「知識統合を導く4つのステップ」が、児童・生徒の理科の学びをとらえていく上での有益な手掛かりとなり得るのか。知識を統合していく過程において、三宅(2003)が整理した2種類の統合(視点①:異なる領域や内容に対する知識や理解の統合、視点②:同じ問題に対する解・解法のバリエーションの統合)がどのように生じるのかなどを視点として、理科授業を通じて児童・生徒の内面に創られる知識や概念との関連性と共に明らかにしていくことであった。なお、Linnらの研究は、欧米の児童・生徒を対象に行ったものであって、当然のことながら我が国の理科授業の形態などとは違いがある。本研究は、我が国の理科授業を対象として、上記のことを明らかにすることを目指した。 これまでの分析において明らかにできた我が国の児童・生徒の知識統合の実態として、以下の2点を挙げることができる。 ア. 理科の問題(課題)解決過程における児童・生徒の知識統合は、Linnが狙ったような科学的な知識間の関連づけといった比較的大掛かりな統合というよりは、むしろ「自分の考えと他者の考え」、「既習の知識と自分の考え」を一つずつ結び付けていく微視的な統合(=Micro Integration(以下MI)と称する)の繰り返しや蓄積によって、統合が成立していく可能性が高いこと。 イ.上記ア.の過程を辿るケースが多いことから、三宅が指摘する「視点①」の統合は、「視点②」と比較してその実現が難しいこと。 明らかにできた上記の実態を踏まえて、より確かに知識統合を実現していく理科の授業デザインの具体を事例的に検討していくことが、次年度の課題になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍からアフターコロナへの転換期となった2022年度は、学校現場においてはほぼ通常の理科授業が展開される状況にあったが、外部研究者が学校に入って実態調査等を行ったり、単元の授業全体を継続的にVTR等で記録したりすることは、一定の制約が残ったままの状況であった。加えて、コロナ禍による学習遅滞等が生じないように、授業進度に気をつかう学校が多い状況でもあったことから、対話活動や表現の活動を十分に取り入れた理科授業を提供いただけることが難しい1年であった。このことが、研究の遅れにつながったと考えている。 しかし、このような状況はある程度まで想定できたので、今年度実践された理科授業をもとにデータの収集と分析を行うことに加えて、本研究の趣旨に則って実践された過去の理科授業で収集できていたデータも分析対象として追加することで、今年度の目標であった学習者の知識統合の実態について明らかにすることに取り組んだ。このようなかたちで作業を進めたことで、大きな遅れにまでは至っていないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に記したとおり、我が国の理科授業で行われることが多い問題(課題)解決過程の中での知識統合の実態や特徴に関して、1年目の研究から以下の2点を明らかにすることができた。 ・児童・生徒が対話的・協働的に思考する際に生じる「小さな統合(MI)」とその連鎖 ・特定の問題(課題)を解決しようとする過程の中で、異なる知識や内容と関連付ける「視点①」の統合を生じさせることの難しさ 知識統合理論を援用しながら理科における「深い学び」の実現を目指す本研究においては、明らかになった実態を、授業やカリキュラムのデザインに反映させていくことが求められる。特に、2点目にあげられた「視点①」の統合を生じさせる授業やカリキュラムについては、事象に関連する知識等を俯瞰的にとらえる視点を持てることが関連する可能性を見出している。 1年次の実態把握研究を通して少し見えてきた「小さな統合を繰り返す中で生じる、事象に対する俯瞰的な視点」は、児童・生徒のメタ的な思考へと繋がっていく可能性が考えられることから、このような視点やその思考様式をどのように生起させるかなどが、2年次目の授業デザインにおける課題になるように思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続いてではあるが、コロナ禍により当初計画していた出張、特に学会や研究会における研究発表等がすべてオンラインになったこと、また、学校現場に入って授業を記録したり調査用紙を配布したりする調査について、制約が残った状態だったことなどから、予定していた旅費がほとんど執行できず残額となった。 これに伴って、収集できたデータが限られたことから、学生や院生に集計や分析の一次処理を依頼する謝金の執行が必要なくなってしまったこと、また、授業提供者との協議についても原則オンライン形式となり、研究内容の協議や授業実践の依頼等に謝金を伴うことがなかったことがあげられる。 旅費については、学会の開催形式がどうなるかで変わりうると考えられることから、他の費目で執行することを計画する予定であ る。学生・院生に対する業務依頼や授業実践者との協議については、今年度以上にオンラインと対面での作業が実施できそうであるので、予算の執行が見込める
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