研究課題/領域番号 |
22K02632
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中森 誉之 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (10362568)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 学習指導要領 / 統合型の技能学習指導 / 形成的評価 / 総括評価 / 真正評価 / 学習中心の評価 / 探究学習 / 段階性 |
研究実績の概要 |
今年度の課題は「段階的に学習者の脳内に外国語処理メカニズムを創成するための統合型英語評価理論の構築」であった。 昨年度までの現状把握や基礎研究を受け,英語文章理解・表出過程に焦点を当てた指導内容・指導時間配当・指導順序及び練習・活動・試験・評価に関して,現在までの研究で蓄積されたデータと比較検討を行い,実証研究を実施した。教育の現場で,新型の学習指導法と評価法に対する,多種多様な諸課題を十分に掘り起こして解決策を立てるためには,2年程度を計画している。高等学校段階を対象とした中級段階と上級段階の学習者を縦断的及び横断的に調査して,具体的な形で検証を行っている。同時に,総合的な学習や探究の時間の中で,国語科や社会科,理科などとの連携を想定して,課題探究と発表に対する,母語の能力との比較検討を重点的に行った。産業や経済活動,文化・風土・歴史,農林水産,環境問題や社会問題などを含めた様々な課題に対して,母語と外国語とでは,考察や言語化過程が異なっているのかを緻密に検討した。本格化する統合型の技能学習指導において,学習者の思考と言語知識に最適に働きかけ,文章の理解と表出を円滑に進めていくための方策を考案し,練習・活動・試験・評価の手法を積極的に開発している。 目下,教育現場においては,学習を促すための評価と,最終的な成果を判断するための評価が混同され,学習者と教授者に多大な負担と緊張が高まっている現状にあり,明確な区別と適切な運用の必要性が認識された。また大規模テストでは,実際の学習内容とはかけ離れた言語技能や言語知識が出題され,学習者と教授者の意欲や動機に影を落としていることも確認された。常識化して習慣となっている英語学習指導観は,新しい統合型の英語教育とは異なっており,評価やテストの在り方も変革が求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在までの私の研究では,認知科学理論,言語習得理論に基づいて,日本人英語学習者の英語獲得のメカニズムや過程を解明し,長期的実証研究を踏まえた,理論的根拠を持つ,我が国独自の一貫性がある教授学習理論の構築を目指してきた。単著の和書6冊と洋書3冊を通して,言語処理能力育成の観点から,4技能と語彙・文法の学習指導理論を構築して,技能を統合していく必要性を提唱してきた。教員養成・研修 外国語(英語)コア・カリキュラムや2020年度施行の学習指導要領では,技能を統合していく方向性が盛り込まれた。小学校・中学校・高等学校で,段階性(レディネス)を遵守しながら,どのように技能を統合していくか,カリキュラム設計と,具体的な授業実践の試論を,教育学的見地から提起した。現在は,各段階に適合する練習・活動と,評価について,理論構築を継続的に行っている。 認知科学の知見を援用しながら,聴覚器官や視覚器官・触覚器官に次々と入力される言語刺激(音声,文字・点字)を円滑に解読して理解し,自らのことばで表出を続けていくメカニズムを解明した。この研究の大きな発見事項の一つとして,文章読解のつまずきの原因は,まとまりのある素材に対する聴解にある点である。さらに多角的な検証を進め,教育への提案を行いたい。句や文レベルを超えた,文章レベルの聴解・読解メカニズムや発話・文章作成の領域は,近年研究が活発化して,興味深い提唱が情報学や人間工学をはじめとする,色々な分野から行われ始めている。こうした現状を踏まえて,認知科学を根拠とする技能統合型英語教授・学習理論の検証,評価理論の精緻化,教育現場への還元を進めている。『英語運用能力の修得:学校教育課程の学習指導と評価(仮題)』の執筆も行い,来年度には出版予定である。
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今後の研究の推進方策 |
伝統的に,英語教育学の分野では,実際に日本人学習者の英語獲得の過程や実態,困難性を体系的に十分調査して,それに基づいた論を展開した先行研究はあまり多くはなかった。その大きな原因は,経験と勘,習慣化して常識化した経験主義による製品開発や,英語圏を模倣した指導技術偏重の傾向が非常に強く,周辺諸科学の理論に基づいた学術研究は敬遠,軽視されがちであったためと考えられる。こうした在り方は,研究者の問題意識の変化によって,少しずつ改善が進んでいる。 本研究の成果に基づき,理論に支えられたタスク,正確な診断評価とフィードバック,段階的な指導と評価技術の確立,デジタル技術を活用した教材・教具・運用能力評価システムの開発に生かし,視聴覚融合,言語処理,AI専門の工学系の研究者や技術者とも協力しながら,活発な意見交換と知見の普及,学習者の個人差やニーズへの対応に努めたい。さらに,認知科学と教育工学の調和と融合に基づく知見を広く社会へ還元していくことにより,教育のバリアフリー化に微力ながら貢献したい。同時に英語母語話者中心の英語教育界に対して,非母語話者教授者と学習者の立場からの提言を国際的に行う。母語話者と非母語話者が持つ言語知識,記憶基盤,感覚運動器官や脳機能は全く異なっているばかりではなく,教育体制や言語環境は,海外と日本とでは同一ではないからである。 現在は,教材・教具の提供が先行し,既存のテストを目標に設定して,教師たちの試行錯誤と直観に基づいて教授学習支援が展開されており,理論的な裏付けを求める声が強く寄せられている。認知科学の見地から,児童や生徒のための基礎研究を,学習者の立場に立って重点的に行う。学術的根拠に裏打ちされた,我が国独自のきめ細かい英語運用能力評価理論を緊急に整備していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外(アメリカやイギリス)での調査を延期し、国内調査と分析に専念したため。
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