研究課題/領域番号 |
22K02645
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
笹野 恵理子 関西外国語大学, 英語キャリア学部, 教授 (70260693)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 学校音楽 / カリキュラム経験 / 国際比較 / 教科学習経験 / 経験されたカリキュラム / 学校音楽文化 / 回顧的カリキュラム / 生きられたカリキュラム |
研究実績の概要 |
本研究は、学校音楽教育研究において、教科学習経験を構成する過程とメカニズムを国際比較の観点から明らかにしようとするものである。研究代表者は、これまで潜在的カリキュラム論から着想を得て、教師と児童生徒の学校音楽経験を「学校音楽のカリキュラム経験」と呼んで対象化し、教師と児童生徒がどのように経験を構成するのか、という課題にとりくんできた。そして、「学校音楽のカリキュラム経験」を構成する装置として「学校音楽文化」を仮説し、学校音楽文化全体で教科の学びが紡がれているという「学校音楽文化理論」を仮説として提出してきた。本研究課題では、その仮説をより強固なものにするため、国際比較の観点から教科学習経験を構成する過程のメカニズムを検討する。 2023年度は、コロナの5類への移行により、海外渡航手続きなども容易となったため、昨年度に引き続いてイタリアにおいて現地調査を実施することができた。そこでは、現地の学校の聞き取りとともに、現地校にも通いながら日本語補習校で学んだ日本語補習校卒業生に焦点をあて、聞き取り調査を実施した。 また研究成果公開促進費(学術図書)の助成をうけ、本応募課題の成果の一つとして学術図書を刊行し、それによって、国際比較のためのベースをつくることができた。 2023年度の成果として、イタリアの「教育課程」を訳出し、現地調査を重ねたことで、①学校における知の文化伝達過程は、当事者である学習者の側からみれば、制度→教師→子どもという一方向的、単線的なものでなく、複線的であり、ダイナミックで豊かであること、②教科の学習経験は、教科授業だけでなく、学校音楽文化の総体から構成される、という本研究の仮説を裏付けるとともに、学校音楽文化を形成するファクターとして、社会包摂と「芸術的市民権」に根差した地域の音楽文化との相互作用にイタリアの学校音楽文化の特質をみることができることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナの5類移行にともない、海外調査が容易となったことから、フィールドワークについても制約が格段に緩和された。2023年度の調査は、今後の研究の進展にきわめて有益であり、これまで検討してきた理論仮説を裏付けるとともに、地域文化や法制との接合から理論モデルを再構成することの着想を得ることができた。 また日本語補習校が抱える課題等も含め、音楽を教科としてカリキュラム化していない学校においても、音楽活動がさまざまな意味をもたらすことも確信できた。 しかしながら研究遂行上予期していなかった課題のひとつに、航空運賃の値上げ、オーバーツーリズムに伴う宿泊代金の高沸があり、その点では調査の限界を認めざるを得なかった。今後はフィールドを縮小する、オンラインでの聞き取り調査に限定するなどの代替措置を積極的に検討し、文献調査だけでなく、本研究が積極的に採用するフィールドに根差した「当事者」の「語り」を蓄積することで研究を遂行していきたい。 本研究課題の遂行中には、その他の社会状況によっても海外における調査活動が制限されることがあり得るかもしれないが、比較対象国の縮小や変更、オンラインを活用したインタビューなどをあらかじめ想定し、不測の事態に備えた代替措置をあらかじめ検討しておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
海外渡航の困難さは完全に回復し、海外調査が可能となったため、今後は積極的に調査実施を検討し、研究をおしすすめていきたい。 しかしながら航空運賃や宿泊料金の高沸、その他国際情勢などでは、対象国を限定せざるを得ないことも予測し得る。代替措置も検討しつつ、予算の目途がたつ範囲で、積極的に調査活動を展開し、研究成果を発信することを試みたい。 また研究成果発信として、24年度は国際学会での成果発表を計画している。国内外への成果発信を積極的に検討し、今後は英語による学術図書の刊行を含め、国際共同研究へと展開していくことを視野に含め、国際比較に耐えうる研究の理論枠組みを構想していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
航空運賃やホテル代の高沸により、海外調査旅費に予定をはるかに上回る予算が必要となり、他の支出を控えて現地調査を優先したことから、次年度使用額が生じることとなったが、当該額からみる限りではおおむね予算計画内の範囲といえる。次年度は、国際学会での発表と調査旅費が必要となり、厳しい予算計画となるが、謝金、国内旅費などを見直し、国際学会における成果公表と海外調査を最優先してすすめる計画である。
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