研究課題/領域番号 |
22K02686
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研究機関 | 釧路公立大学 |
研究代表者 |
田中 達也 釧路公立大学, 経済学部, 教授 (10633448)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非大学型高等教育機関 / オーストリア / 「将来の大学」プロジェクト / ドイツ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、オーストリアの非大学型高等教育機関(専門大学)に焦点を当て、総合大学との対等化または総合大学への昇格に向かう動きがあるのではないかを明らかにすることである。具体的には、隣国ドイツにおいて専門大学がどのように議論されているのかを分析し、オーストリアとの違いを明確にする。そして、日本の専門職大学・専門職短期大学へのフィードバックを行う。 令和5年度は、第1にオーストリアの専門大学に焦点を当て、2016年に行われた「将来の大学」プロジェクトの報告書を分析した。シュール(Schuell)による専門大学の3つの将来像は、総合大学と専門大学を明確に区別することが前提となっていたため、完全な競争関係に移行することは視野に入っていなかった。しかし、現実には専門大学は総合大学に近づいている。「将来の大学」は、連邦政府がオーストリアの高等教育を緩やかな形で統制下に置くことが目的となっていた。具体的には、4つの高等教育機関を完全にすみ分けする状態を継続するのではなく、連邦政府が協力出来る環境を整えることによって、国際競争力向上を図っている。オーストリアの専門大学は、経済界の影響が強いため、専門大学を完全に総合大学に移行することは難しい。そのため、連邦政府が主導して連携強化を図ることによって、緩やかな連合体の組織化が目指されていることが明らかになった。 第2に、隣接するドイツのバイエルン州における専門大学についての分析を行った。2000年代末から一部の大学に工科大学(Technische Hochschule)の名称が付与された要因を明らかにした。それは、単に工業系学部を拡充するだけではなく、地域連携や国際化を積極的に行った大学にも付与されていた。これは、州政府が競争力の強化を図っている応用科学大学に名称を付与することによって、さらなる競争力向上を目指していることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、当初の予定通り「将来の大学」プロジェクトを分析することを通して、オーストリアの専門大学は総合大学との対等化に向かっているのかを考察した。2010年代前半までは、総合大学、専門大学、教育大学、私立大学が棲み分けを行い、別々に発展していくことが良いと考えられていた。しかし、ボローニャ・プロセスをきっかけにして国際競争力の強化が必要とされる中で、連邦政府は、オーストリアの高等教育を発展させるための連携・協力を模索するようになった。それは、一方では高等教育への国家の介入の強化であるが、他方では国家主導で専門大学を総合大学に近づけていることも示していた。 また、前年度研究発展途上であったドイツの専門大学研究について進めることが出来た。バイエルン州では、専門大学の多様化戦略が取られている。それは、工業系学部の学生数増加など著しい発展の見られる専門大学に工科大学の名称を付与したことであった。単に専門大学を総合大学に昇格することではなく、多様化を進めることによって、州の高等教育の競争力強化を図ろうとしていることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
日本では、2019年に専門職大学・専門職短期大学が成立したものの、大学数・学生数が少なく、中等後教育段階の職業教育は専門学校に大きく依存している状態が続いている。オーストリアとドイツの専門大学は、当初は中等後教育機関と位置づけられていて、高等教育機関と認められるには20年以上かかった。そのため、日本では高等教育分野において実践的な職業教育がまだ定着していないのが現状である。 3年目にあたる令和6年度は、2年間進めてきたオーストリアとドイツにおける非大学型高等教育機関についての研究を継続・整理するとともに、日本の専門職大学・専門職短期大学へのフィードバックを行うことが目標である。第1に、日本について、経済界・国家がどのように関与しているかである。ドイツやオーストリアは総合大学の負担を軽減させるため、学生負担を専門大学へシフトしている。少子化が続く日本では、大学と専門職大学との関係をどのように考えているのかを分析する。 第2に、ドイツについては、工科大学の名称が付与された大学に焦点を当てて、バイエルン州政府による報告書を丁寧に分析し、名称付与がされなかった大学との相違点を明らかにする。 第3に、オーストリアについて、「将来の大学」プロジェクトの詳細な報告書を分析し、専門大学のポートフォリオと透過性(Durchlaessigkeit)に焦点を当てる。オーストリアでは、専門大学の果たす役割の拡大について、どのように議論されているのかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナによる規制が緩和されてからはじめての海外渡航であった。積極的な海外渡航には不安が残ったため、海外の学会発表の1回にとどまり、オーストリアやドイツに時間をかけていくことが出来なかった。代替措置として、文献研究に重点を移して、関連文献を収集し、研究を進めることとなった。 令和6年度は、最終年度に当たり、これまでの研究仮説を検証するための現地調査を実施する計画である。
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