研究実績の概要 |
1.漢字の読みに特異な困難を示す1事例について継続介入を行い、実態把握からの効果的な支援を検討した。困難の要因として、聴覚障害に起因する音韻的な誤り、発達性読み書き障害による文字と音との対応困難、注意の課題による漢字の形に注目することへの困難さがあり、語彙ルートを用いた意味的な経路に頼って読もうとしていること、一方で語彙力に不十分さがあるため「1字から他の熟語の読みや意味につられる」や「送り仮名までつけたもの」、「読みの追加」という対象児に特徴的な誤り方をしていると考えた。そこで、漢字1字ずつの複数の読み方を丁寧に確認し、熟語や文章に読み方を当てはめて聞いたことのある読みを考えることについて週1回程度計11回の指導を行った。指導後のSTRAWR正答数は介入指導前より11/126語あがった。誤答を分析すると、先述した対象児に特徴的な誤り方はどれも減少していた。 2.聴児用に標準化されている〈特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドライン〉(稲垣,2010)を聴覚特別支援学校小学部1~3年生の児童35名に実施し、標準化を試みた。また対象児童の担任教諭も対象として読み書きチェック表を配布した。音読方法で音声群と指文字群に分けて分析し、聴児検査に基づき各群の標準偏差から基準値を求めようとしたが、個人差が大きかったため分散が大きくなり、担任教諭のチェックによる実態と合わなかった。そこで聴児の音読時間の平均と聴覚障害児の音読時間の平均との差を聴こえにくさによる影響分と捉え、それを聴児の+2SD値に足して基準値を作成した。また基準値と合わせて、単文以外の音読課題のうち複数課題で「読み飛ばし」または「読み誤り」が見られること、担任教諭の読み書きチェック表(特に「単語または文節の途中で区切ってしまう」や「逐次読みをするあるいは続いた」)を含めて総合的に判断する必要があると考察した。
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