研究課題/領域番号 |
22K02830
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研究機関 | 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター) |
研究代表者 |
石田 百合子 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター), 能力開発院, 助教 (40770855)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 課題中心型教授法 / TCI / PBL / FD / 学習者中心の学び / 熟達者 |
研究実績の概要 |
実社会と連携し、現実の社会課題を中心に据えた学生主導の学習活動(以下「課題中心型学習」)を実施する高等教育機関が増えている。しかし、従来の教員主導の講義中心型授業からの転換には、教員、学生ともに多くの課題を抱えている。本研究の目的は、課題中心型学習の導入・実践にあたり、主に教員を対象に課題中心型教授法の実践技術を熟達者から初心者へ転移させるための授業運営支援ツールの設計・開発することである。開発した当該ツールを活用してもらうことで、課題中心型学習への教員の心理的、時間的負担軽減を目指している。 令和4年度は、課題中心型学習の科目を導入している(導入検討中含む)教育機関へのフィールド調査の実施に向け、質的データの分析や記録資料(写真・動画を含む)を蓄積するためのPC等の環境整備を行った。また継続的なフィールド調査が実施できる教育機関を探すため、教育系学会や課題中心型学習の一つであるPBL(Project-based Learning)に関する勉強会へ参加し、情報収集を行った。 次に、研究協力者が所属する国立高等専門学校の協力を得て、全学で行われているPBL科目を担当して3年以内の教員6名を対象に、インタビュー調査を実施した。当該科目の授業運営で工夫している点、学生に対しての働きかけや介入で迷った点・悩んだ点をヒアリングした。また当該校がPBL科目の開講初年度から毎年作成し、改訂しているPBL授業ガイドブックの分析、評価を行い、その結果を教育システム情報学会の研究会にて発表した。 その他、学科単位で各学年にPBL科目を配置するカリキュラムの検討を進めている工学系大学にて、カリキュラム設計を担当している教員と定期的に情報交換を行った。その一環で、当該学科の教員向けのPBL勉強会を実施し、質疑応答を通じて、PBLの科目設計や授業運営にてハードルとなるポイントを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、地域と連携・協働して実社会の課題を題材に取り入れた専門教育が盛んな建築分野・NPO分野の教育実践者、コーオプ教育を積極的に行っている大学にて授業改善・教育改善を行う専門家に研究分担者として入ってもらい、研究を進める予定であった。しかし、研究代表者が昨年4月に異動した所属機関では規定上、他機関の研究者を研究分担者にすることができないことが判明した。そこで今年度は、研究体制の見直し、開発予定の授業運営支援ツールへの蓄積データの収集、フィールド調査の進め方の検討および予備調査に注力した。 その過程で、建築やNPO分野以外の専門教育で課題中心型学習を取り入れた教育を行っている教育実践者1名、地域にある複数の大学・短大・高専等と連携したFDを行っている専門家1名に、本研究の研究協力者として、新たに連携・協力してもらえることになった。 令和4年度に実施予定だった予備検討のうち、課題中心型学習の取りまとめ教員へのグループインタビューは、調査先の事情で個別インタビューに切替えたが、必要な情報の収集は個別インタビューでも可能であることが確認できた。 同じく実施予定であった、課題中心型学習の導入・実践の妨げとなる要素の同定を目的とした教員意識調査は、調査項目の検討が十分にできず、実施できなかった。しかし、PBL科目を担当して3年以内の教員への個別インタビューの分析結果から、専門分野・経験年数等による課題中心型学習における課題の違いが見えてきた。令和5年度はこれらの結果を踏まえ、教員意識調査のアンケート設計を検討したいと考えている。 以上の理由から、本研究は現時点ではおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、令和4年度に行った国立高等専門学校でのPBL科目を担当して3年以内の教員インタビュー調査の分析結果についての学会発表を行う。また当該結果をもとに、課題中心型学習に対する教員意識に関するアンケートを設計し、調査を実施することで、課題中心型学習の導入・実践の妨げとなる要素を同定する。 次に、令和4年度に行った予備検討の結果を踏まえ、課題中心型教授法の熟達者インタビュー、実践事例の収集を行う。インタビューの際は、既に開発済のインタビューシートを用いるが、前述のインタビュー調査の分析結果から得られた、課題中心型教授法の初心者である教員が求める情報や課題中心型学習に関する最新の教育理論・知見も加味し、必要に応じてインタビューシートを改善する。またインタビュー協力者の同意を得られれば、授業や活動の参与観察や参加学生へのヒアリング等も行いながら、授業運営支援ツールに蓄積するデータの収集を行う。 これらの作業を通じて、本研究で開発する課題中心型教授法の実践支援ツールのうち、「実践事例データベース」部分のシステムの仕様・設計を固め、開発に着手する。なお各種法令を遵守のうえ、「実践事例データベース」には可能な限り、授業観察の記録データ(音声、動画および観察メモ)、個々の学習者の学習・活動記録を蓄積・公開する。そのため、データ収集の際は、調査協力してもらう教員の所属機関の各種規則等にも従い、事前承諾や必要な手続きを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の現所属機関では、他機関研究者を研究分担者にできないため、当初計画で研究分担者として本研究に参画予定だった研究者を研究協力者へ変更する手続きを行った。そのため、研究計画や研究体制の大幅な見直しが必要になり、令和4年度は出張を伴う調査等について、当初計画通りの執行ができなかった。令和5年度は、研究代表者および研究協力者の所属機関の出張依頼等に関する事務手続を確認し、調査先の地域や専門分野等も考慮のうえ、一緒に調査に入るのが適切な研究協力者を選定し、計画的にインタビューやフィールド調査を実施する。
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