研究課題/領域番号 |
22K02911
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
鈴木 拓弥 筑波技術大学, 産業技術学部, 教授 (10553935)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 聴覚障害 / 実技 / つまずき / オンライン / 動画 / 教材 / 自習 / 共有 |
研究実績の概要 |
本研究は,実技演習に関わる自習やオンライン学修時などの場面において,動画等の教示映像を用いて学修する聴覚障害者の「つまづき」の要因について明らかにし,解決することを目的としている.情報保障のための字幕が,返って理解を阻害する場合があることに着目し,学習者の集合から得られる情報を基本とし,学修時の「つまずき」解消を試みるものである.今年度は研究初年度として,はじめに「つまずき」要因の把握について研究を推進した. オンライン授業時には対面授業時と比して,学生の学修状況を教員が把握しにくく,「つまずき」要因の発見と,学生への気づきの誘発を困難にしている.特に音声を共有しにくい聴覚障害学生へのオンライン授業では本問題が顕著である.本問題の解決に関し,研究初年度は,オンライン学修に取り組む学生の集合から情報をリアルタイムかつ同時並行的に得るための手法として,オンライン学修時の学生の課題進捗や制作状況を一定時間毎に記録,観察できる手法を開発した.具体的には,学生の画面の操作状況を一定時間毎にクラウドに保管し,リアルタイムかつ過去に遡って一覧できるUIを内包するソフトウェアを開発した.本ソフトウェアは,導入コストを必要とせずに活用できるようにするため,また,主たる教示対象ソフトウェアの動作の妨げとならないよう,低負荷のWebアプリケーションとして開発した.本手法は当初は教員が学生の様子を記録,観察できるようにすることを目的としていたが,学生相互の観察を可能とする仕組みを内包する仕様として開発した. また,研究初年度後半の取組として,開発後に聴覚障害当事学生の協力のもと,開発した手法の評価を実施した.評価実験では手法の有効性を確認すると共に,実施後,ソフトウェアの改善点を得た.続く年度においてアプリケーションの改修や機能強化を進める予定である.以上が研究初年度としての成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,申請時の仮説として,学生に画面共有等の操作を要求することなく教員が学生の作業進捗状況を把握できる仕組みを実現し,また,学生から発せられる情報を学生間においても共有することで,「つまずき」の解決に役立てることができると仮定していた. 研究着手後,初年度の取組として,はじめに「つまずき」箇所の把握を目的としたアプリケーションの開発に着手した.本アプリケーションは,「つまずき」箇所を把握するための予備的な手段として,当初は「研究実績の概要」で述べたオンライン学修中の学生の操作状況(制作進捗状況)を教員がリアルタイムに観察できるアプリケーションとして計画した.本アプリケーション開発着手後,仕様策定において,本開発を研究初期段階の予備的な調査を目的とした開発に位置づけるのではなく,教員が把握した学生の進捗状況を学生間でも共有可能とする仕組みに拡張することを着想した.これにより,学生の「つまずき」要因を把握するという予備的な目的ではなく,最終的な目的である「つまずき」の解決そのものに応用可能なソフトウェアとして開発することができるのではないかと考えた.そこで,オンライン実技演習時の進捗状況を,教員間及び学生間で観察,共有することを可能とする低負荷のWebアプリケーションを開発した. 現在まで,アプリケーションは運用可能な状態まで開発を進めており,初年度の研究活動において聴覚障害当事者学生の協力のもと評価実験を実施できた.また,学生間での観察や共有が「つまずき」の解決に有効であることの確認や,アプリケーションの改善点や機能拡張につながる知見を得ることができた.以上の進捗状況から,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
申請時の予定では「つまずき」解決につながる具体的な手法の開発は2023年度以降を予定していた.「研究実績の概要」および「現在までの進捗状況」で述べたように,2022年度末の時点で問題の解決に応用可能なアプリケーション開発まで進捗できている. 現時点で開発できているアプリケーションは,学生の制作進捗状況を教員が把握することができる等,基本的機能については問題なく開発,運用できている.一方で「現在までの進捗状況」において述べたように,学生間での共有の仕組みについては基本的な段階に留まっている.アプリケーションに付帯すべき様々な機能や,聴覚障害当事者学生の協力のもと実施した評価実験から得られている改善点への対応は十分ではない. また,以上のようにこれまでの研究活動において「つまずき」の解決につながる手法やアプリケーション開発については順調に推移し,限定的に運用を開始しているものの,開発した手法の公表や研究発表,外部への発信など,公表や発表については現時点では十分に実施できていない.今年度はアプリケーションの機能拡張を引き続き推進しつつ,公開や研究発表等も推進していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症に伴う影響などにより,予定していた国内旅費が未執行となったこと,また,当初計画していた研究補助員の雇用を見送るなどしたため. 一方,アプリケーション開発は順調に進捗していることから,アプリケーションの改善や機能拡張に関する費用や物品の購入に充当する計画である.
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