研究課題/領域番号 |
22K02981
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
谷 友和 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (60547040)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植物検索教材 / AI / 花のスケッチ / 機械学習 / 中学校理科 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、中学校理科「生物の観察と分類の仕方」の単元で活用可能なAI型植物検索教材を開発すること、及び開発教材を活用して中学校理科の授業モデルを提案することである。当初の計画では、令和4-6年度に身近な草本植物20種程度の判別能力を持たせることを目標としていた。令和4年度には、以前作成したプロトタイプ(初期型)の判別器で使用した4種(タンポポ、ハルジオン、シロツメクサ、オオイヌノフグリ)に加えて、カタバミ、ヒメオドリコソウ、ヒルガオ、スミレ、カラスノエンドウ、ヘビイチゴ、タネツケバナ、キュウリグサ、ムラサキケマンの9種の花の学習用画像を判別器で扱えるようにした(計13種)。新たに加えた9種については計2600枚の学習用データを作成した。 機械学習後には、性能評価用のスケッチ画が必要となる。これについては、11名の作業補助者を募り、計138枚の手書きスケッチ画を集めた。これをスキャナーでPCに取り込み、電子データ化して使用した。 機械学習アルゴリズムに関しては、プロトタイプのものに修正を加え、コードを再構築した。判別器の判別能力は、プロトタイプでは最大85%に達していたが、新たに9種を加えた13種全体では47.1%に低下した。また、新たに加えた9種のみで判別を行うと、正答率は34.7%とさらに低下した。令和4年度は種数の増加を急いだため、1種当たりの学習用データ数が少なくなってしまったことが判別能力低下の原因と考えられる。今後、学習用データ数を増やして判別精度を上げていきたい。 この他、令和4年度には、国立大学法人J附属中学校第1学年の1学級(36名)を対象に,理科第2分野「いろいろな生物とその共通点」の学習において,植物と動物のスケッチを紙とタブレットに描く授業実践を行い、対象学級の全生徒にアンケート調査を実施した。現在、アンケート調査結果を論文にまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、研究期間中(令和4-6年度)に「花スケッチ判別器」が識別できる種数の目標を20種程度としていたが、令和4年度中に13種の花を認識させるに至った。ただし、短期間に多くの花のデータを追加し、種毎のデータ数が十分でなかったため、判別精度が芳しくなかった。この点は今後改善していく所存である。また、計画通り、上越教育大学の学生・院生にアルバイトを依頼し、計138枚のスケッチを描いてもらうことができた。 判別プログラムの改修と教材アプリの作成に関しては、令和5・6年度に実施予定であったが、令和4年度中にアルゴリズムの修正とコードの再構築を実施し、教材化に向けた準備を進めることができた。さらに、令和4年度中にJ附属中学校第1学年の1学級を対象に、タブレット端末に植物と動物のスケッチを描いてもらう授業実践を行い、タブレットにスケッチを描く体験に関してアンケート調査を実施できた。この調査により、令和5・6年度に予定していた中学校理科授業モデルの構築に向けての準備を進めることができた。 上記のように、現在までの進捗状況は当初の計画と比べて遜色がないため、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、「花スケッチ判別器」の学習用データの蓄積と判別能力の向上を図りたい。令和4年度には13種の花について判別能力を持たせたが、その判別結果は30-50%程度に留まった。これを踏まえ、一旦、判別種数を増やすことを止め、既存の13種に対する判別力を高める努力を行いたい。現状、判別能力が低下している原因の一つとして、教師画像の構図のバリエーションが少ないことが挙げられる。同種の花でも、スケッチする者によって描く部位が異なることがあり、特に小花が多数集まって花序を作る植物の場合、花序を描く者と、小花を描く者がいた。そのような場合に、特に判別力が低下していた。よって、教師画像のバリエーションを増やすことを当面の課題としたい。現状では1種につき300枚弱の教師画像を有するが、これを1種当たり500枚程度にまで増やすことを目標とする。この作業には多くの労力を要するため、今後も作業補助者を配置する。さらに、色情報のないスケッチ画像においては、アサガオとヒルガオのように花の形態がよく似ていると、判別器が両者を識別できないことに課題がある。そこで、スケッチに加えて、色や開花日(観察日)等の情報を判別器に与えることを検討したい。 この他、「花スケッチ判別器」のインターフェイスの構築を行い、中学生でも手軽に扱えるアプリとして仕立てる必要がある。これについては、幅広い機器やOSで動作可能なWEBアプリとして整備を進める予定である。また、開発教材を活用した中学校理科の授業モデルを今後策定していきたい。その際、現行の学習指導要領が掲げる「資質・能力の三つの柱」を満たすことを念頭におく。開発教材は、上越教育大学の講義でも活用し、理科教師を目指す大学生・大学院生のAIリテラシーの向上を図っていきたい。 研究成果は学会や学術誌等を通じて社会に発信していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度に購入した液晶ペンタブレットについて、購入前に使用計画を見直したところ、指によるタッチ操作機能がなくても特に問題がないことが判明し、同機能が搭載されていない機種を購入した。購入したPCについても、型落ち(年数経過)により、購入金額が若干下がった。 これらにより24,941円の残額が発生した。残額については、令和5年度に購入予定のタブレット端末の購入資金に充てる予定である。
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