研究課題/領域番号 |
22K02983
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
坂口 雅彦 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (30221998)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 理科教育 / 生物学 / 数学 / 物理学 / 関連性 / 教員養成 / FUMIEテスト / 教科横断 |
研究実績の概要 |
小中学校で,将来理科の授業を行う教員養成系大学の理科コース所属学生自身が,数学及び物理学・化学・生物学・地学の理科4領域のいずれかに対する苦手意識を持ち,なかには嫌悪感を示す学生さえいる。従って,義務教育教員養成段階において,その苦手意識を克服させ,将来,児童・生徒に有意義な理科授業を行い得る教員を養成する教育が必要である。申請者は理数教員志望大学生に対し,生物学と,物理学・数学との関連性を意識させる教材「メンフクロウの音源定位」を開発し,この教材を使用した授業後,生物学の理解において数学・物理学が必要と回答した学生が増大したことを授業前後のアンケート調査で明らかにした(坂口,2012)。本研究では,心理テスト(FUMIEテスト)で上記教材の有効性(嫌悪感減少)を検証するとともに,その他の「生物学と物理学・数学の関連性を意識させる教材」を開発し,これらの教材が苦手克服や嫌悪感減少への効果を示すかを検証することを目的とし,授業前後でアンケート調査とFUMIEテストを行う。 本年度は,「メンフクロウの音源定位」の教材で授業を行い,授業前と授業後にFUMIEテストを行った。キーワードとして「数学」,「物理」,「生物」の3つを用いた。この有効性検証については生物学と物理学・数学との関連性を意識させない教材での授業前後でのFUMIEテストの結果との比較検討が必要で,これは次年度にゲノム編集等の倫理観を必要とする新技術の授業を教材に行う予定であり,解析結果については次年度まとめて報告する。 また新しい「生物学と,物理学・数学との関連性を意識させる教材開発」を本年度は行った。具体的内容については競争もあり記載を行わないが,今後アンケート調査とFUMIEテストで有効性を検証していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ禍によるリモート授業ではFUMIEテストの実施は難しいところ,感染状況が若干改善され,対面での授業を行うことができ,生物学と,物理学・数学との関連性を意識させる教材「メンフクロウの音源定位」を用いてFUMIEテストを授業前後で行うことができた。しかし,この結果は,生物学と,物理学・数学との関連性を意識させない教材を用いてFUMIEテストを授業前後で行い,結果を比較検討する必要があり,その授業を本年度行うことはできていない。これはまだ新型コロナ禍で完全に対面で実施できた授業が少なかったことに起因する。次年度は対面授業への改善がさらに進み,事態が改善されるものと思われる。 生物学と,物理学・数学との関連性を意識させる新たな教材開発も今年度行った。競争があるので本実施状況報告書では詳細な報告は差し控えるが,酸の化学平衡における数学の利用,神経における電気緊張電位の軸索方向への電気的等価回路での説明,遺伝の孫世代における理論値3:1と実測値間の統計的検証など順調に教材の開発は進んでいる。 教員免許法の改正により理科授業が減り,検証するための授業が少なくなっている。また所属機関におけるカリキュラム改定により,計画したスケジュールでの検証が行えず,新たな計画を立て直す必要がでてきた。このように予期していなかった事態が起こってきたのでこの点を改善するため,ローテーション担当授業を次年度優先的に担当させてもらうように変更し,検証を行う計画へと変更した。
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今後の研究の推進方策 |
高校での理科の選択制の弊害で,個々の授業受講者のバックグラウンドが多様であり,均一な母集団を想定した解析ができない可能性がある。例えば,ある受講者は高校で生物基礎さえ単位を取得しておらず,代わりに地学基礎の単位を取得しており,生物については「生物」だけでなく「生物学基礎」も受講していない。一方別の受講者は「生物基礎」も「生物」も高校で単位を取得してきている。また数学についても高校で「数学III」の単位を取得した受講生もいる一方で,「数学II,B」までの受講生もおり,「メンフクロウの音源定位教材」では数学IIIの双曲線の定義を使用するため,理解の前提がことなり,均一な母集団とはいえない状況である。従って,全体を均一な母集団と仮定した統計的解析に加え,個々の受講生の個別調査,具体的にはインタビュー調査も行う必要があると考えている。 また教員免許法の改正により,申請者の授業を受講しない理科学生が多数いるので,免許に関係した授業以外の機会,例えばCST(コアサイエンスティーチャー)プログラムを用いた講習等を検証の場として利用できないかと考えている。 また生物学と数学の関連性,生物学と物理学の関連性に留まらず,教科横断として,理科生物学と家庭科栄養学との関連性や,理科生物学と体育学人体の運動と働きとの関連性なども追及していくことも考えている。そのために理科以外の教科の教員と連携した教職大学院の教科横断授業の利用を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ禍が収まってきたとはいえ,基礎疾患をもつ申請者は学会参加についてはまだ慎重であるべきと考え,オンラインでは学会に参加し,情報収集したものの,発表及び情報収集での旅費を使用しての学会への対面参加は行わなかったため,次年度使用額が生じたのが主な理由である。 この他,新型コロナ禍の恩恵というべきか,ICT機器を使った授業の有効性としてchromebookによる手書き入力とGoogle workspace foe educaion中のJamboardの有効性に気が付いたので,どのように予算を有効にICT関連機器に使うか熟考したため,予算執行が本年度内に間に合わず,次年度使用額が生じたのも理由である。 次年度は,新型コロナ禍が急速に収束に向かってきたので,積極的に学会に対面で参加し,情報収集とともに成果を公表していく予定である。また,ICT機器として受講者のあらゆるパソコンからのTVモニタへの瞬時のワイヤレス情報共有ができる体制への使用計画が整ったのでこれらの機器を購入利用して,検証を進めたいと考えている。
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