数学学習において学習者は,事象からみいだした特徴を記号や文字を用いて式に表し,その式を変形することで,それまでには知覚することのできなかった事象の持つ他の特徴を把握することができるようになる.それにより,学習者は高次の思考を進められるようになる. 本研究は,このように数学の記号と式を駆使しながら思考する学習者の性向を学習者の視線に着目しながら分析する.それゆえ,代数的思考に関する研究としてKaput(2008),Usiskin(1999)をレビュ―するとともに,形式的操作による思考に関する心理学研究であるCollis(1974),Lunzer(1973)をレビュ―した。CollisとLunzerは,具体的操作による思考が形式的操作による思考へ発達するための条件として「Acceptance of Lack of Closure(以下,ALC)」を規定した。CollisとLunzerの述べるALCとは,「結論の出ないデータに直面したときに,早まった推論をしないようにする能力」のことで,ネオピアジェ派である彼らによってPiagetの二次操作と関連付けて説明された。すなわち,ALCは,式に対して操作した結果を捉え,その意味を考えることと関連する。 本研究では,これまで学習者の操作として外化された思考を,学習者の視線も加えて分析する。それゆえ,式を操作した結果を事象に照らして捉え,その意味を考える際の学習者の思考を生起させるために,Kaputらの述べる代数的思考の特徴を含み,ALCにかかわって「結論の出ない状況」を設定した教材を開発した。
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