研究課題/領域番号 |
22K03070
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研究機関 | 中村学園大学 |
研究代表者 |
野上 俊一 中村学園大学, 教育学部, 教授 (30432826)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 知的好奇心 / 最近接知識獲得モデル / ズレ低減モデル / 知識量 / 興味 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,主体的に深く学ぶための学習活動を支える知的好奇心の生起過程について,主な先行研究で示されている「認知的葛藤を解消しようとする」というズレ低減モデル(discrepancy reduction model)に対して,学習者をコンピテンス動機づけに基づく成長を希求する存在とみなし,「知っているからもっと知りたくなる」とする最近接知識獲得モデル(proximal knowledge acquiring model)の妥当性を知識ネットワークの活性度と形成の観点から検証することである。 令和4年度は,学習課題に関連する知識の提示の仕方によって生じる既有知識の活性度や形成可能性の違いが学習課題に対する知的好奇心に影響するかを実証的検討の前段階を遂行した。具体的には,学習者の持っている既有知識が少なくても関連知識を供与することが知的好奇心を高める足場かけとして機能するのか否かを検討するためのレビューと予備的調査を実施した。 一般的な大学生が豊かな知識を持たないと想定される「昆虫食」をテーマに,「昆虫食経験者」を知識所持群,「昆虫食未経験者」を知識不所持群,とみなし知識の所持と不所持によって好奇心にどのような差違があるかについて大学生118名を対象に調査をおこなった。その結果は,これまでに昆虫を使った食品を食べたことがある人は118名のうち36名(30.5%)であり,昆虫食経験の有無と知的好奇心の高低でクロス表の分析をしたところ,昆虫食の経験がある群では知的好奇心の高群の割合(63.89%)が高く,昆虫食の経験がない群では知的好奇心の高群の割合(45.12%)が低かった(χ2(1)=3.52, p=.060)。この結果は知的好奇心の最近接知識獲得モデルを直接支持するものではないが,知識(経験)の有無によって知的好奇心の程度に差違が生じる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本実験に先行する予備調査は実施したが,知識供与という操作による対象に対する知的好奇心の程度の差を検討することができなかった。原因としては予備調査の実施と分析に基づく本実験のデザインへの展開が想定通りにいかなかった点と一般的な知的好奇心の測定と特異的な知的好奇心の測定をどのように実施するのか,その妥当性の問題を解決できなかった点の2つがある。 予備調査では昆虫食をテーマとして昆虫食の経験の有無によって知的好奇心に差があることが示されたが,どちらの事象が先行しているかは不明である。別の予備調査では昆虫を用いた食品を試食することを希望した研究参加者に実際に食べた後に,昆虫食への態度や行動に変化が生じるかを検討した結果,否定的な態度の低下や別の昆虫を用いた食品への喫食希望などが認められた。しかし,研究参加者が少数であることや調査時は個別ではなく集団単位で行ったことにより結果の妥当性や一般化に問題があった。 パーソナリティ特性としての知的好奇心と対象そのものに対する知的好奇心には正の相関があるもののその大きさは対象によって異なることが予備調査で明確になったが,この測定の問題を解決するための尺度開発は現在まで継続している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の予備調査を踏まえて,学習者の持っている既有知識が少なくても関連知識を供与することが学習課題に対する知的好奇心を高める足場かけとして機能するのか否か,について,大学生を対象とした実験と質問紙調査を行う。具体的には,一般的な知的好奇心の程度と事前知識を統制した上で,関連知識の供与の有無によって,知識供与の前後の学習課題に対する知的好奇心や探索学習行動に差があるか否か,あるとすればどのような差があるかを検討する。そのために,令和4年度の予備調査で生じた問題を解決するために,まず尺度開発を先行して実施し,その後に実験及び質問紙調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本実験の実施のための費用として物品費および謝金を計上していたが,令和4年度は研究レビューと予備調査実施とその後の問題解決に留まったため支出はなかった。令和5年度は本実験を実施することから,実験装置や分析用機器,研究参加者への謝金に使用する。
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