研究課題/領域番号 |
22K03115
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
島袋 静香 沖縄科学技術大学院大学, 発達神経生物学ユニット, スタッフサイエンティスト (70649798)
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研究分担者 |
小塩 隆士 一橋大学, 経済研究所, 教授 (50268132)
Tripp Gail 沖縄科学技術大学院大学, 発達神経生物学ユニット, 教授 (70455567)
古川 絵美 沖縄科学技術大学院大学, 発達神経生物学ユニット, グループリーダー (80507509)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ペアレント・トレーニング / 教師ビデオ介入 / Well Parent Japan / ADHD |
研究実績の概要 |
注意欠如・多動症(ADHD) は、通常小児期に発症する神経発達障害の1つで、有病率は5から7%である。ADHDは、子どもの生活に影響を与えるだけではなく、子どもの保護者や家族、また学校の教師の生活の質にも影響を与える。ADHDを持つ児童の家庭では、問題となっている行動を力尽くでコントロールしようとすることや、口論の末に虐待に繋がることも少なくない。学校においても、教師による子どもの叱責が多くなることや、子どもとの関係性が悪化することで、適切な対応や支援を提供することができないこともある。 日本国内では、これまでそのような問題に対して、両者をそれぞれ別々に支援するプログラムの効果を検証した研究は多くあるが、保護者と教師の両者に対して同時に行なった介入の効果を検証した研究はない。またもう1つの大きな課題は、介入プログラムの効果が実証されても、実践の現場に関わるステークホルダーが介入プログラムを採用し、実践し、さらに継続できるかという問いを解決する研究の少ないということだ。果たして学校という環境で、保護者や教師を支援する介入プログラムの導入というのは実行不可能なのだろうか。 今回の研究では、ADHDを持つ児童の母親を対象に開発を重ね、ランダム化比較試験を通じて効果が実証されたペアレント・トレーニング(ペアトレ)と、それを教員向けにアレンジしたビデオ教材を組み合わせた混合型介入プログラムを学校現場で行うことの実行性とその効果について検証する。介入プログラムを新たな環境で実施する場合には、その組織における場の文脈に合わせることが重要であり、教育現場における阻害および促進要因を明らかにし、今後を見据えた実装戦略を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年から2025年までに、研究を4段階に分け、下記に示した3つの具体的な検証課題を実証および検討する。 検証課題1:実装前段階では、介入対象となる児童の保護者、教師、学校関係者、教育委員会の担当者等へインタビューや協議を行い、介入に対する要望の調査、介入受け入れの内的および外的環境の調査、学校で介入プログラムを行う際の実装の阻害・促進要因を明らかにする。 検証課題2:実装アプローチ方法を同定した後、県内3つの協力小学校に適用させ、プログラムの「実行の可能性(feasibility)」を評価する。また、実装戦略に重要な要素となるプログラムの運営費用についても分析する。 検証課題3:実装戦略の効果およびペアレント・トレーニング&教師のビデオ教材の臨床効果について事前事後評価試験を用いて分析・検証する。 本年度は、本県教育委員会や協力小学校と連携しながら、本研究参加小学校を特定し、学校教師、学校責任者、教育委員会担当者を対象に、学校における問題点や支援プログラムに対する要望等についてヒヤリング調査を行った。教育委員会と小学校責任者と複数回のグループ協議を行い、介入に対するニーズや具体的な実施方法を同定した。決定事項として、学校内で混合型支援プログラムを実施する際に発生する教師の人材補助、日程調整、教師用ビデオ教材の内容の確定および対象者拡大の決定、教師用ビデオの視聴配信方法などについて協議を行い決定した。また、ヒヤリング調査を踏まえ、教師用ビデオ教材の内容を決め、作成に取り掛かっている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度における今後の研究計画推進方策は、上記に示した検証課題2を実行することである。検証課題2における主要な達成目標は、混合型支援プログラムの実施に向けて、ペアトレを運営する学校関係者(学校内で勤務する教師と行政から派遣するスタッフ)をトレーニングすることと、教師用ビデオ教材の作成および完成をまず達成することである。その後、9月下旬より同プログラムを県内2から3小学校にて実施する。
当プログラムの効果検証に関して、参加する保護者、児童、教師へ、事前事後のアンケートによるデータ収集を行う。教師用ビデオ教材に対する効果については、教師へのアンケートに加え、その内容について記述式のアンケート調査を実施する。研究計画当初は、研究の参加者となる教師のみへの記述式アンケート調査を予定していたが、教育委員会側からの要望により、教師用ビデオ教材の取り組みに対する意見を抽出するため、全教師に視聴してもらい、個々の指導能力や教師間の協力体制への影響についても調査対象とすることにした。
本年度は、同プログラム実施の1回目となる為、教育機関関係者を含めて決定した現段階における実施戦略を試す段階に位置ずけている。実施の阻害要因および促進要因を更に特定し、来年度2度目の実施に活かしていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、2022年度に計画していた実装前段階である実装アプローチを同定する調査が、県内三つの協力小学校の決定が遅延したために、介入に対するニーズを同定する協力小学校の児童保護者、学校教師、学校責任者、教育委員会を対象にしたヒアリング調査及びグループ協議が予定通り進まなかったことが理由である。また、第二段階は、第一段階を踏まえて教師用ビデオ教材の作成を行う段階だが、第一段階が遅延したことによって、それらにも遅れが出たため、予算執行ができなかった。 今後の使用計画として、本年度で三つの協力小学校が決定したため、様々なステークホルダーへのヤリングを開始した。次年度も継続してヒヤリングを実施し、その情報に基づいて教師用ビデオ教材を作成する予定である。また、ペアレント・トレーニングを運営する学校関係者の専門的なトレーニングを実施する予定であるため、未使用となった予算を執行できると考える。
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