研究課題/領域番号 |
22K03161
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研究機関 | 常葉大学 |
研究代表者 |
長屋 佐和子 常葉大学, 教育学部, 教授 (30410632)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 母子生活支援施設 / DV被害者支援 / 多職種連携 / 心理療法 / トラウマケア |
研究実績の概要 |
母子生活支援施設(以後母子寮)とは,さまざまな理由によって地域で安全に生活することが困難となった母子世帯を保護し,自立に向けて生活を支援する施設である。開始当初は死別によって母子家庭となった世帯が70%以上を占めていたが,次第に配偶者からの暴力や経済的理由によって入所する世帯が増加した。このような変化に伴って入所者の心理的問題が複雑化したため,2001年より心理担当職員が配置されることとなった。しかし,現在まで入所者の心理的問題及び施設内の多職種連携に関する研究はほとんど行われていない。本研究では,入所者特有の心理的特性に対応した心理的援助の方法について検討するとともに,多職種連携による自立支援のあり方について検討を行う。 本研究の研究代表者は,心理職として約20年間勤務する母子生活支援施設・愛知しらゆり荘における心理的支援に携わっている。当該施設における面接記録を用いて,DV被害者の心理的特性とその回復過程について質的に検討することを予定している。このため,令和5年度は,本年度は常葉大学研究倫理審査の承認を得て,10年間の記録のデータ化を行った。 また,前年度に調査した施設職員と心理職員との多職種連携に関するアンケート結果をもとに論文を発表した。この調査では,愛知県内の母子生活支援施設職員(16名・9施設)を対象としたアンケート調査により,生活職員が心理職員に対して肯定的評価を行っていることが示された。特に,心理職員が入所者の心理状態を的確にアセスメントし,その結果を生活職員に伝えて欲しいとの希望があることが明らかになった。 令和6年度は,データ化した面接記録を用いて,KH Coder(樋口,2014)による計量テキスト分析を行う。入所者の心理的問題を見立てによって分類し,計量テキスト分析によってDV被害者の心理構造を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度は,予定通り研究代表者が所属する常葉大学の研究倫理審査委員会の承認を得て,面接記録のデータ入力を実施した。DV被害者を対象とした研究であり,高度な守秘義務が求められることから,施設内の非常勤心理職員にデータ入力を委嘱した。データ入力担当者の選定及び研究倫理審査の実施に若干の遅延が生じ,令和5年3月にデータ入力が完了となった。このため,本年度の当初予定では,研究代表者による面接記録を用いて計量テキスト分析を開始する予定であったが,令和6年度に分析を実施することとなった。 また,当初予定では,生活職員に対するインタビューを実施予定であったが,研究倫理審査委員会の承認を得る必要があったため,遅延が生じている。このため,インタビュー調査についても来年度以降に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
母子生活支援施設の入所者の多くは,精神障害,人格障害,発達障害,DV被害によるPTSDなど多様な心理的困難を抱えている。入所者は,これらの複雑な心理的問題に加えて,生活面,育児面,経済面においても問題を抱えている。このため,生活職員と心理職員との連携が欠かせない。本研究では,入所者の心理的側面を明らかにすることに加えて,生活職員との連携により,有効な入所者支援方法について検討することを目的としている。 令和6年度の研究では,入所者の面接記録を用いた計量テキスト分析を実施する予定である。計量テキスト分析の特色は,言葉を計量的に分析することにより,客観性・信頼性の高い分析が可能であることに加えて,第三者による比較・検証が行いやすいという点にある(樋口,2017)。また,複数人による言語データを単語に分解した上で単語間の構造を分析する手法であることから,DV被害者の個人情報保護の観点からも適した方法であると考えられる。入所者の心理的問題を見立てによって分類し,計量テキスト分析によってそれぞれの心理構造を明らかにする。 これと並行して,生活職員と心理職員との多職種連携に関するインタビュー調査の準備を行い,令和6年度に実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定では,2023年度中に研究代表者による面接記録のデータ化を実施し,母子生活支援施設の生活職員に対するインタビューを行う予定であった。このうち,面接記録のデータ化は完了したが,インタビューは未実施であり,協力者に対する謝金を支出していない状態である。このような状況から,概ね計画通りに遂行しているが,若干の遅延によって次年度使用額が生じている。 令和6年度中には,インタビューを実施する予定である。これに伴い,人件費・謝金及び研究代表者の旅費に助成金を使用する予定である。
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