研究課題/領域番号 |
22K03213
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
富原 一哉 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (00272146)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 母性行動 / 妊娠期ホルモン変動 / 親的投資配分仮説 / 行動神経内分泌メカニズム / 母性記憶 / 心理臨床的応用 / evidence-based practice / リアルワールドデータの活用 |
研究実績の概要 |
近年,妊娠授乳期のホルモン変化やそれに影響を与える環境要因が,母性行動発現に関わる脳・神経機構の変化に関与していることが示されてきている。本研究は,その基礎メカニズムの解明を目指すとともに,そこで得られた知見を心理臨床場面で応用する道を探るものである。 令和4年度においては,まず妊娠・出産経験による母性行動の持続性と般化を検証した。具体的には,自身の仔を離乳してから4週間経過後の雌マウスに対し他個体の仔(里子)を提示し,養育行動を観察した。その結果,経産雌は未経産の雌よりも養育行動の従事時間が長い傾向にあり,妊娠・出産経験により形成された母性行動は,養育期間以外であっても,また血縁にない仔に対しても,非常に頑健であることが示された。次に,どのような繁殖条件の雌が,どのように投資配分を行うのかを明らかとするため,強制配偶場面において,社会的優位の雄と交尾した場合と劣位の雄と交尾した場合で,出産後の養育行動を比較した。その結果,雌親の養育行動に明確な差は認められなかった。今回の結果と以前の予備的研究の結果と総合すると,雌親の仔に対する投資配分には交尾における選択可能性が重要であると示唆される。これらの結果に基づき,令和5年度以降は,さらに雌マウスが母性投資の配分を行う条件を検証するとともに,そのような投資配分を実現する神経内分泌メカニズムの解明に着手する予定である。 一方,探索的試みである研究知見の心理臨床場面での応用については,まずそれを実施するための協力体制の形成に重点をいた。具体的には,現場のニーズを受けて,それぞれの機関で行われている取り組みの有効性を実証するデータ分析支援等を行うことで良好な協力体制を構築することに成功した。今後は,この体制の中に研究知見をどのように還元していくのかを検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験に関わる幾つかのトラブルや当初想定していた実験結果が得られなかったことなどから,配偶に伴う母性発現調節の行動神経内分泌メカニズムの検討については,想定していたものよりやや研究が遅れている。今後は実験条件の精査や検討脳部位の限定等で対応する予定である。 一方,探索的試みである心理臨床応用の検討については,協力体制の構築など,順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究で,強制配偶場面において交尾を行なった雌マウスでは,養育行動の親的投資配分が確認されなかったことから,令和5年度は,配偶者選択が可能な場面での交尾によって,親的投資配分が起こるかを確認する。また,行動制限のない場面での交尾では,雌の神経内分泌反応に影響を与えるとされる交尾時に受ける刺激のコントロールが困難であるため,統制可能な人工刺激によって,養育行動の促進が可能かを検証する。 研究知見の臨床的応用については,現場の心理士の意見を得ながら本研究に関する情報発信内容とその方法の検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の遅れに伴い,分析作業にかかる人件費・謝金や物品費等の使用が年度内に行われなかったことと,新型コロナ感染症流行のため,学会参加等の旅費が使用されなかったため,次年度使用額が生じた。これらについては,研究進行に伴って順次使用予定である。
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