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2022 年度 実施状況報告書

未知なものに対する不安・葛藤と行動を調節する神経回路の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K03214
研究機関奈良県立医科大学

研究代表者

堀井 謹子  奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (80433332)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2026-03-31
キーワード視床下部 / 神経ペプチド / 常同性繰り返し行動 / 強迫性障害 / リスクアセスメント / 防御行動 / 安全性
研究実績の概要

防御行動は、脅威から命や身の安全を守るために進化してきた行動であり、ヒトにも生得的に備わっている。動物には、天敵や襲撃者など、リスクが明瞭で差し迫った脅威(急迫的脅威)に対しては、「闘う、逃げる、すくむ」といった防御行動が備わっており、これら行動を司る神経メカニズムは解明されている。一方、動物には、これらの行動に加え、リスクが曖昧・不明瞭なものに対しても、疑い、怪しむ性質が備わっている。新奇物体など、リスクが曖昧・不明瞭なものは、潜在的脅威として脳に認識され、その刺激は、警戒を伴う探索行動である“リスクアセスメント”を引き起こす。リスクアセスメントを調節するニューロンは長年不明であったが、我々の最近の研究により、視床下部に存在するUrocortin-3産生ニューロンが関与することが明らかになった。本ニューロンは、Urocortin-3の他、エンケファリン神経ペプチドも産生することがわかっている。本研究の目的は、リスクアセスメントを司る神経回路の詳細と、神経ペプチドの役割を明らかにすることである。令和4年度の研究により、これらニューロンの活性化が、新奇物体に対するリスクアセスメントのみならず、動物の住処(ホームケージ)においても、その安全性を高める行動を引き起こすことが明らかになった。また、Urocortin-3神経ペプチドの役割に関する予備実験も行ったが、それにより改善点が明らかになり、現在、準備を進めているところである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

PeFA―外側中隔神経回路を薬理遺伝学によって活性化するために、逆行性AAVベクターAAV2(retro)- FLEX- hShy-hM3Dq-mCherryをUcn3―Creマウスの外側中隔へ注入したが、PeFA Urocortin-3(UCN3)ニューロンにmCherryの発現が認められなかった。これに関しては、AAV retroの感染効率がニューロンの種類によって異なることが原因であるこのことを確かめるためには、AAV-EF1a-EGFP-WPRE (retro)をLSに局所投与してPeFAとそれ以外の場所での感染効率を比較する実験が考えられるが、研究成果に直接結びつく実験ではないので、優先度は低いと考え、本問題に対する策は3つ考えている(今後の推進方策に記載)。
また、上記の実験と並行して、平成6年度以降に予定していた、PeFA UCN3ニューロンがホームケージ内の行動に与える影響と、これらニューロンが発現する神経ペプチドのshRNAによるうノックダウンを目的とした予備実験(令和6年度に予定していたもの)を行った。これらニューロンの活性化は、ホームケージ内で、おそらくその安全性を高めるための行動を誘発することが明らかになり、新たな発見につながった。これらが特定の薬剤で抑えられることも示されている。神経ペプチドのノックダウン実験については、成果は得られたが、実験方法の改善が必要であることがわかった(今後の推進方策に記載)。

今後の研究の推進方策

PeFA UCN3ニューロンの活性化が引き起こす行動の変化(新奇物体に対するリスクアセスメントやburying行動の亢進)が、中隔を介して行われているかを明らかにするために、2つの方法を考えている。一つ目は、PeF UCN3ニューロンが投射する外側中隔のGABAergicニューロンを欠損したマウスで、上記の行動を調べる方法である。これにはUcn3―Creマウスを用いた薬理遺伝学と、GABAニューロン特異的抗体(anti-vgat)とサポリンの複合体を用いたターゲットトキシンを組み合わせて行う。2つめは、Ucn3-Creマウスを用いた光遺伝学である。PeFAにAAV(DJ)-FLEX-hShy-ChR-EGFPをインジェクションし、光ファイバーを外側中隔へ埋め、青色光による照射を行い、行動への影響を明らかにする。GABAニューロンを誘導した遺伝学を用いる方法、2つめは、中隔ニューロンの細胞死を誘導したマウスでPeFA UCN3ニューロンをDREADDで活性化する方法、3つめは、Flpリコンビナーゼを逆行性感染させ、Flp/Cre依存的にhM3Dqを発現するAAVをPeFAに投与する実験である。現時点では、中隔ニューロンの細胞死誘導から行う予定であり、最終的には光遺伝学を用いる予定である。
PeFA UCN3ニューロンが発現するUCN3とEnkephalinペプチドの役割を明らかにするために、野生型マウスとAAVを組み合わせた、これらペプチドのshRNAによるノックダウンの予備実験を行い、既に一定の成果は得られたが、問題点も明らかになった。今後は、細胞選択性の精度とloss of functionを明瞭にするため、cre依存的なcrispr/cas9システムを用いて、神経ペプチドのノックアウトを試みる予定であり、そのためのAAVベクターを作製中である。

次年度使用額が生じた理由

申請当初、ホームケージ撮影装置に不具合があったため、買い換えを考慮していたが、修理で対応できたため、予算が抑えられ、次年度使用額が生じた。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Juvenile social isolation affects the structure of the tanycyte-vascular interface in the hypophyseal portal system of the adult mice.2023

    • 著者名/発表者名
      1.Takemura S, Ayami Isonishi, Horii-Hayashi N, Tanaka T, Tatsumi K, Komori T, Yamamuro K, Yamano M, Nishi M, Makinodan M, Wanaka A.
    • 雑誌名

      Neurochem. Int

      巻: 162 ページ: 105439

    • DOI

      10.1016/j.neuint.2022.105439.

    • 査読あり
  • [学会発表] 視床下部による潜在的脅威に対する防御行動調節―精神疾患との関連―2023

    • 著者名/発表者名
      堀井 謹子
    • 学会等名
      日本生理学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 「不確かな脅威」に対処する神経メカニズムと強迫性障害との関連性2022

    • 著者名/発表者名
      堀井 謹子
    • 学会等名
      日本神経内分泌学会 川上賞受賞講演
    • 招待講演
  • [学会発表] 視床下部ニューロンが引き起こすホームケージ特異的な新たな防御行動ー強迫性障害との関連ー2022

    • 著者名/発表者名
      堀井 謹子・西 真弓
    • 学会等名
      日本神経科学大会。神経化学・神経回路学合同大会
  • [学会発表] 視床下部ウロコルチン3ニューロンの潜在的脅威に対する防御行動調節 第127回 日本解剖学会総会・全国学術集会 大阪大学 COVID-19のため2022

    • 著者名/発表者名
      堀井 謹子
    • 学会等名
      日本解剖学会

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公開日: 2023-12-25  

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