研究課題/領域番号 |
22K03284
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岸本 大祐 九州大学, 数理学研究院, 教授 (60402765)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 代数トポロジー / ホモトピー論 / 組み合わせ論 / ポリヘドラルプロダクト |
研究実績の概要 |
ポリヘドラルプロダクトとは、抽象単体複体の組み合わせ情報をもとに通られた直積空間を貼り合わせて得られる空間である。例えば、座標空間配置やその補空間、トーリックトポロジーの中心的研究対象である(実)モーメントアングル複体やDavis-Januszkiewicz空間はポリヘドラルプロダクトの例である。ポリヘドラルプロダクトのトポロジーの研究において重要なのは、もととなる抽象単体複体の組み合わせ構造とポリヘドラルプロダクトのトポロジカルな性質の間の対応関係を明らかにすることである。例えば、モーメントアングル複体やDavis-Januszkiewicz空間のコホモロジーは抽象単体複体のStanley-Reisner環やその導来代数であることが知られており、ポリヘドラルプロダクトがトポロジー、組み合わせ論、可換環論とを結びつけることがわかる。
ポリヘドラルプロダクトと元となる抽象単体複体の組み合わせ構造との関係を調べるために、入江幸右衛門氏とファットウェッジフィルトレーションの理論を構築し、その応用として様々な結果を上げてきた。その一つが、閉曲面の三角形分割がGolodであることの特徴づけである。抽象単体複体のGolod性は古くから研究されているが、その組み合わせ的特徴づけは知られていない。当該年度は、3次元多様体の三角形分割のGolod性に関する研究を、ファットウェッジフィルトレーションを用いて行った。微分幾何学におけるタイトな埋め込みの組み合わせ版として、タイトな抽象単体複体が定義され、多様体の三角形分割の極小三角形分割と関連して盛んに研究されている。当該年度行なった研究により、Golod性、タイト性、ファットウェッジフィルトレーションの自明性が3次元多様体の三角形分割に対して同値であることを証明した。この結果は全く出自の違う抽象単体複体の性質を結びつける重要なものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリヘドラルプロダクトの研究はトポロジーと組み合わせ論との架け橋を与え、特に、組み合わせ論の視点からだけでは発見できなかった組み合わせ構造の発見に貢献する。多様体の三角形分割のタイト性とGolod性とが関係していることは、組み合わせ論の視点だけからは見抜けず、ポリヘドラルプロダクトのトポロジーを通して初めて発見された。ポリヘドラルプロダクトのファットウェッジフィルトレーションの理論を用いて、これらの概念が同値であることが3次元の場合に示せた。また、一般次元の多様体の三角形分割に関しては高次プリズム作用素を用いた代数的な研究を進めている。さらに、ポリヘドラルプロダクトの研究で得たテクニックを応用することで、組み合わせ論の問題へ代数トポロジーを応用する研究も行い、Tverbergの定理の一般化などの結果を得た。以上より、研究の現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断できる
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今後の研究の推進方策 |
まず、一般次元の多様体の三角形分割に関するGolod性とタイト性の関係を代数的に明らかにする。そのために、Stanley-Reisner間のKoszulホモロジーの高次Massey積の自明性を証明しなければならない。そこで、ホモロジーのホモトピー不変性などの証明に用いられるプリズム作用素の高次元版を考える。次に、この研究が完成したのち、この代数的な結果をポリヘドラルプロダクトのトポロジーの研究へと還元する。特に、タイト性とファットウェッジフィルトレーションの関係を明らかにする。
ポリヘドラルプロダクトの研究で得られたアイディアやテクニックを組み合わせ論の問題へと応用する。現在までに、離散配置空間のホモトピー分解を通して、トポロジカルTverbergの定理をある種のCW複体からユークリッド空間への連続写像へと一般化することに成功している。このホモトピー分解はポリヘドラルプロダクトにアイディアのルーツをもつ。今後、van Kampen-Floresの定理など、関連する組み合わせ論の結果を代数トポロジーの視点から一般化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス蔓延の影響で、出席予定だった海外の研究集会に参加できなかっため。使用できなかった分は、2023年度メキシコで開催される国際会議に出席するための旅費とする。
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