研究課題/領域番号 |
22K03287
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐藤 進 神戸大学, 理学研究科, 教授 (90345009)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 仮想結び目 / 溶接結び目 / 捩れ多項式 / 交差多項式 / 捩れ数 / タングル |
研究実績の概要 |
仮想結び目および溶接結び目の概念は、3次元ユークリッド空間内の古典的結び目の拡張であり、平面上の実交点・仮想交点をもつ射影図で表される。また、仮想結び目は厚み月閉曲面内の結び目とみなすことができ、溶接結び目は4次元ユークリッド空間内のトーラスが作る曲面結び目とみなすことができる。古典的、仮想、溶接結び目の性質には類似点だけでなく大きな相違点もあることが知られている。それらの類似性、相違性を調べることは結び目理論において重要な課題である。 前年度までの研究において、仮想結び目に対して、捩れ多項式や3種類の交差多項式とよばれる不変量を導入し、その性質の解明を行った。本年度はこれらの不変量を通して、仮想結び目と古典的結び目の相違性を明らかにした。具体的には、二つの仮想結び目の射影図に対して、それらの捩れ数が一致していても正則同値(ライデマイスター変形IIおよびIII)とは限らないことを示した。古典的結び目に対しては捩れ数の一致と正則同値が必要十分条件である、という事実はよく知られている。また、溶接結び目に対しては、古典的結び目と同じ振る舞いをすることも示すことができた。 交差多項式は、閉曲面上の二つのサイクルの交差数を利用して定義される。このアイディアを拡張することにより、交差多項式を仮想絡み目に対しても定義し、その性質の一端を明らかにした。与えられた仮想絡み目に対し、その各成分の射影図を自由にとることはできない、という既知の結果の簡便な別照明を与えることもできた。 仮想絡み目と関連して、仮想タングルについても、その不変量のひとつであるZ彩色に関連する研究を行った。古典的タングルのZ彩色においてその端点の色の交代和は0に等しいことが知られているが、本研究では仮想絡み目では一般に0とは限らないこと、また適当な仮想タングルの端点の色として実現するための必要十分条件を与えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
仮想結び目の閉曲面上の射影図に対して、各交点が定めるサイクル同士の交差数を適当な重みをつけて形式的に和をとった多項式を考えると、ライデマイスター変形IIおよびIIIで不変となることがわかる。ライデマイスター変形Iでは不変にならないが、これを捩れ多項式を用いて補正することにより、仮想結び目の交差多項式が定義される。このことは、たとえ捩れ数が一致していたとしても捩れ多項式が異なるならば正則同値にはならない可能性があることを示唆しており、実際それを証明することで、仮想結び目と古典的結び目の差異を調べる研究を進展させることができた。 また、仮想絡み目への仮想多項式への導入にも、やはり閉曲面上のサイクルの交差数を利用できることをつきとめ、これを用いて3種類の新しい多項式不変量を定義することができた。さらにそれらは各成分が表す仮想結び目の不変量とはある意味で独立であることもわかった。これにより、不変量を用いた仮想絡み目に関する研究を進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、2成分仮想絡み目に対して交差数を用いた2種類の多項式不変量を定義することができた。これらは、一方の成分上の交点が定めるサイクルと、もう一方の成分自身が定めるサイクルとの交差数を利用して得られる2種類と、それぞれの成分上の交点が定めるサイクル同士の交差数を利用して得られる1種類である。仮想絡み目には異なる成分間でできる交点もあるが、そのような交点のペアに対してサイクルが定まる。これを利用することにより、上記の3種類以外の多項式不変量を定義できることが期待される。そのような不変量が定義できれば絡み数より深いものとなるはずであり、その定義と性質の解明を目標として研究を進めていきたい。 また、タングルのZ彩色について、古典的な場合は特に有理タングルの「分数」と関連することがカウフマンらによって示されている。一方で本年度の結果は、仮想タングルの場合には「分数」に相当するような不変量は定義できない、ということを意味しているようにみえる。そこでZ彩色以外の不変量、特に仮想結び目の宮澤多項式のアイディアを仮想タングルにも導入し、その性質を調べることで仮想タングルの分類につなげることを目標として研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、当初計画していた出張や研究打ち合わせを予定通りに遂行することができなかった。コロナ禍がおさまってきたので、次年度は計画通り出張などを行いたいと考えている。
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