研究実績の概要 |
令和4年度は, 1次元シュレディンガー方程式のWKB解のリサージェンス構造に関する研究を行った. これに関して, 断片的には多くのことがわかっているが, WKB解のリサージェンス性については明確な解答が与えられておらず, 当該分野における重要な未解決問題となっている. このリサージェンス性の解明のためには, WKB解の Borel 変換像の持つ「動く特異点」と「動かない特異点」がどのように現れるか, そして, これらの定める Riemann 面のシート構造の記述が必要となる. 当初の研究計画では, Borel 平面上での直接的な解析を行うことにより, これらの構造の記述を行う予定であったが, これは困難であったため, WKB解の Stokes 現象からリサージェンス構造を復元するという方針で研究を行った. 簡単のため, 今年度は多項式ポテンシャルで単純変わり点のみを持つ場合について考察を行った. そして, 無限遠点で正規化されたWKB解について, discrete filtered set を用いた Borel 平面上の特異点のシート構造に関する記述が得られた. この結果によりWKB解のリサージェンス構造の解明に大きく近づいたように思われる. ただ, この記述法では, シート構造が細かくなり過ぎてしまうため, より精密な記述法の考案が必要であり, この点は今後の課題となった. また, Delabaere-Dillinger-Pham による alien 微分に関する公式と本質的に等価なものではあるが, Voros 係数に対する Bridge 方程式も得ることができた.
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