研究実績の概要 |
本研究計画は,An型ハイゼンベルグ超双極型微分作用素□の解空間(kernel)Sol(□)のK-type構造を明らかにすることが目的であり,本年度はSol(□)を本格的に調べる準備期間に位置付けられる.特に微分作用素□が定義されたKable氏の論文[Kyoto J. Math.]の理解を深化させることを目標としていた.これを踏まえ本年度の主な研究実績として『(SL(3,R), P_{max}; line bundle)における絡微分作用素Dの分類構成問題の解決およびその解空間Sol(D)のK-type構造の決定』を挙げる(なお,ここで「P_{max}」はSL(3,R)の極大放物型部分群を表し,「line bundle」はSL(3,R)/P_{max}上のline bundleを表す).
上述したKable氏の論文ではSol(□)のK-type構造を完全には調べきれていないものの,genericなパラメータにおいてはその構造が決定されている.その決定過程において具体的に構成されたminimal K-typeが基本的な役割を果たしていることから,その具体的構成を理解することは本研究においても重要であると考えられる.上記の(SL(3,R), P_{max}; line bundle)という設定はこのminimal K-typeの構成を理解する上で基本的なものである.一方でこの設定において,絡微分作用素Dの分類構成および解空間Sol(D)のK-type構造の決定問題は未解決であった.そこで本年度はこの問題に着手し,小林俊行氏により開発されたF-methodを用いることによって,この問題を解決した.問題を解決する上で上述のminimal K-typeを実際に構成し応用することもでき,次年度以降の研究を遂行する上で重要な経験になったと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記【研究実績の概要】で述べたように本年度の目的は微分作用素□が定義されたKable氏の論文の理解を深化させることであった.それを踏まえ以下の二つの観点から進捗状況は概ね順調に進んでいると判断した.
(1) (SL(3,R), P_{max}; line bundle)における絡微分作用素Dの分類構成問題の解決およびその解空間Sol(D)のK-type構造の決定 (2) Kableの「H代数」の理解の深化
(1)については【研究実績の概要】欄で詳述したため,本欄では(2)についてのみ述べる.Kable氏は論文[Kyoto J. Math. 2012]において「H代数」という結合代数を導入し,解空間Sol(□)のH代数構造を調べた.このH代数としての構造がSol(□)のK-type構造を記述する上で鍵となっていることから,本研究においてもH代数は重要な役割を果たすと考えている.本年度に参加した研究集会で情報収集をしたところ,実はこれは「Smith代数」とも呼ぶべき,1990年代初頭にS.P. Smithによって導入された代数の特別な場合であることが分かった.この手がかりをもとにSol(□)の構造の理解を一層深めることができるのではないかと考えている.
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