研究課題/領域番号 |
22K03366
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 玄 北海道大学, 電子科学研究所, 客員研究員 (50118535)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 粘弾性方程式 / Boltzmann積分微分方程式 / spring-dashpot models / 緩和テンソル / 逆問題 / 地盤解析 / 完全境界可制御性 |
研究実績の概要 |
粘弾性方程式は、spring-dashpot model, spring-pot model, Boltzmann積分微分方程式等、幾つかのモデルからなる。また、spring-dashpot modelとそれを補間するspring-pot modelもそれぞれMaxwell model, standard linear solid model, Kelvin-Voigt model, Burgers model等がある。これらのモデルは、緩和テンソルを用いて、Boltmann積分微分方程式に変換されるが、この変換は同等な変換ではない。従ってBoltzmann積分微分方程式は、これらのモデル方程式の解全体の中、その一部の解しか記述できない。緩和テンソルの構造を研究する上で、これらモデルから緩和テンソルを求め、その性質を調べる事は粘弾性方程式の逆問題研究にとって、不可欠の課題である。しかしながら緩和テンソルの導出自体が問題となっていた。そこで23年度の研究では、1)これらモデルの緩和テンソルの導出とその性質、そして2)これらモデルの逆問題研究の第一歩として重要な完全境界可制御性について研究した。これらの研究で得られた研究成果は次の通りである。1)については、最も一般的な状況で、これらspring-dashpot modelの緩和テンソルの導出とその緩和テンソルの性質を調べる事が出来る新しい方法を提出した。その結果、上述のspring-dashpot modelの中で緩和テンソルの導出が最も難しかってBurgers modelについて、それに付随するBoltzmann方程式の解の指数減衰評価導出に成功した。2)については、Maxwell modelのreduced modelの完全境界可制御性が、モデルの境界作用素に制御項を付加したモデルの可解性に帰着できる事を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的である粘弾性体の地盤解析法の逆問題研究を、粘弾性体のモデル方程式として良く知られたBoltmann積分微分方程式を用いて行って来た。しかしこの方程式は余りにも一般的で、その方程式に対する仮定、特に緩和テンソルに対する仮定の意味が不明である。また、この方程式は積分微分方程式である為、時間の反転が出来ない、解がsemigroupを生成しない、そして逆問題研究にとって非常に望ましい性質である完全可制御性が不明である等の問題点がある事が分かった。そこでこの方程式に集約される以前から研究されてきたspring-dashpotモデル達について研究する事で、これらの問題点の解決を行い、その結果を本研究の目的にフィードバックする事により、本研究をより応用可能なものにする事にした。これらのモデル方程式達は、非常に煩雑な方程式である為、それに慣れるまで時間を要したが、非常に豊かな性質を持つ方程式である事が次々と分かり、本研究の当初の研究目的遂行にとって重要な新たな視点を獲得した。それらの研究成果については、研究実績の概要で述べた通りである。当初の研究計画から少し逸脱したが、当初の研究計画の完遂の為の強力な下地が出来たと確信している。
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今後の研究の推進方策 |
1)当初の研究目的の研究, そして2)その研究の中で派生した研究とに分けて、今後の研究の推進方策を述べる。 1)については、バイブロサイス反射法粘弾性地盤解析の研究として、区分的に均質な非等方粘弾性方程式の地盤の密度、粘弾性係数のインバージョン法を確立する。また、コンクリートの経年劣化等の準静的な粘弾性変形に対するクリープテンソル同定の逆問題について研究する。これらの研究で得られる研究結果を論文にまとめ、学術誌に投稿する。 2)については、先ずMaxwell modelのreduced modelについて、完全境界可制御性成立の是非を明確にする。これが肯定的な結論に至った場合は、地球惑星科学、レオロジーの研究で、現在非常に着目されているextended Burgers modelについて、完全境界可制御性を示す。この研究で得られる研究結果を論文にまとめ学術誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額2853円を消耗品の購入に充当しようと思ったが、当面必要な消耗品は充足されている事が分かったので、次年度使用額が生じた。この残額は次年度の消耗品購入に使用する予定である。
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