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2022 年度 実施状況報告書

新たな結晶成長モデルの構築と微分方程式論への新展開

研究課題

研究課題/領域番号 22K03376
研究機関日本大学

研究代表者

水野 将司  日本大学, 理工学部, 准教授 (80609545)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2027-03-31
キーワード結晶成長 / Fokker-Planck方程式 / Lojasiewics-Simon勾配不等式
研究実績の概要

空間不均一な拡散性とエネルギー則をみたす非線形Fokker-Planck系の解の存在と長時間挙動の解析を行った,空間不均一な拡散性とエネルギー則を両立するためには,空間不均一性により生じる対数非線形性を取り扱う必要がある.この対数非線形性は,線形拡散に対して尺度臨界な非線形性となることがわかった.この非線形Fokker-Planck系に対し,線形化と放物型Schauder理論を用いて時間局所可解性を示した.次に,エントロピー消散法を空間不均一な拡散性に拡張することによって,解の長時間挙動,とくに可積分空間における平衡解の指数安定性を考察した.この拡張は,質量保存則における速度ベクトルの時間発展に着目したものであり,Fokker-Planck方程式のみならず,質量保存則を基礎におく様々な数理モデルに適用可能であると考えられる.
次に,結晶成長の数理モデルの理解のためにグラフ解に対するLojasiewicz-Simonの勾配不等式の研究を行った.数理モデルの導出過程より,考察すべきエネルギー汎関数は自明であるが,これに対して勾配不等式を考察すべき関数空間の設定は自明でない.本研究において,数理モデルの解が持つ性質を関数空間にとりこむことで,Sobolev空間を基礎空間として,結晶成長の数理モデルに関係するエネルギー汎関数に対するLojasiewicz-Simon勾配不等式の導出を行った.現在,この勾配不等式を用いて,グラフ解の長時間挙動を考察している.
結晶成長の数理モデルの理解には,三重点と呼ばれる,結晶粒界が交わる点を考察する必要がある.エネルギー消散を課したとき,この問題は微分方程式の境界条件に時間発展を課した動的境界条件の問題になる.境界条件の詳しい解析のために,非局所項を持つ境界条件を課した楕円型方程式の可解性とパラメータとの関係を考察した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

Fokker-Planck系の長時間挙動の解析については,空間不均一な拡散性による非線形性をもつ問題への拡張ができた.これは,線形方程式におけるエントロピー消散法を含む新しい方面への拡張となっており,研究当初では予見できなかった結果となった.この研究結果は,走化性モデルなどの質量保存則を基礎におく数理モデルの解析に応用可能であると考えており,微分方程式論への展開に寄与できると考えている.
Lojasiewicz-Simon勾配不等式の導出については,一般的な関数空間における抽象Lojasiewicz-Simon勾配不等式の理解が進んだこともあり,どのように関数空間を設定するかが重要であることが明らかとなった.また,抽象Lojasiewicz-Simon勾配不等式から,具体的な問題の長時間挙動の解析とその解析に必要となる勾配不等式の理解も進んだ.本研究における研究対象だけでなく,エネルギー則を持つ他の微分方程式においても勾配不等式の導出とそれを用いた長時間挙動の研究に応用できると考えられる.

今後の研究の推進方策

Fokker-Planck系の長時間挙動の解析について,空間不均一性やモビリティ,ポテンシャルの仮定を再検討する.空間不均一性は系の温度と関係があるが,温度によってポテンシャルをコントロールできるのではないか,さらに不均一性の強さを温度でコントロールできるのではないかを検討している.これは,研究計画でもある,絶対温度を加えた結晶成長モデルの構築とその長時間挙動の解析に深く影響すると考えている.また,多孔質媒質方程式に分類される退化拡散方程式への拡張を検討している.
他方で,絶対温度を加えた結晶成長モデルの構築を進めている.絶対温度を加えた結晶成長モデルの構築において,結晶方位差と三重点の相互作用を組み込んだモデルを導くことができた.しかし,そのモデルの妥当性,とりわけ局所可解性については,そのモデルの複雑さもあいまって,未だ研究途中である.そこで,解析手法の構築を目標とするために,三重点の影響のみを取り出した数理モデルを導出し,そのモデルの局所可解性を研究している.
結晶成長モデルのグラフ解に対するLojasiewicz-Simon勾配不等式が得られたことから,結晶粒界エネルギーが解析的であるときにおける長時間挙動を研究している.このために時間大域解の存在,勾配不等式を応用した長時間挙動とその収束レートの解析を進めている.さらに,グラフ解の境界条件が周期境界条件のみならず,エネルギー消散に寄与する動的境界条件を課したときの解析手法を微分方程式論,数値解析の双方の観点から研究する.

次年度使用額が生じた理由

予定していた研究集会がオンライン開催となったため,旅費に関する予算に余剰が生じた.次年度,米国にて研究打ち合わせの旅費に利用する.

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] Illinois Institute of Technology/The University of Utah/Columbia University(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Illinois Institute of Technology/The University of Utah/Columbia University
  • [国際共同研究] National Tsing Hua University(その他の国・地域:台湾)

    • 国名
      その他の国・地域
    • 外国機関名
      National Tsing Hua University
  • [国際共同研究] UNIST(韓国)

    • 国名
      韓国
    • 外国機関名
      UNIST
  • [雑誌論文] Local well-posedness of a nonlinear Fokker-Planck model2023

    • 著者名/発表者名
      Epshteyn Yekaterina、Liu Chang、Liu Chun、Mizuno Masashi
    • 雑誌名

      Nonlinearity

      巻: 36 ページ: 1890~1917

    • DOI

      10.1088/1361-6544/acb7c2

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] On the uniqueness of linear convection?diffusion equations with integral boundary conditions2023

    • 著者名/発表者名
      Lee Chiun-Chang、Mizuno Masashi、Moon Sang-Hyuck
    • 雑誌名

      Comptes Rendus. Mathematique

      巻: 361 ページ: 191~206

    • DOI

      10.5802/crmath.396

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] A stochastic model of grain boundary dynamics: A Fokker-Planck perspective2022

    • 著者名/発表者名
      Epshteyn Yekaterina、Liu Chun、Mizuno Masashi
    • 雑誌名

      Mathematical Models and Methods in Applied Sciences

      巻: 32 ページ: 2189~2236

    • DOI

      10.1142/S021820252250052X

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Nonlinear inhomogeneous Fokker-Planck models: Energetic-variational structures and long-time behavior2022

    • 著者名/発表者名
      Epshteyn Yekaterina、Liu Chang、Liu Chun、Mizuno Masashi
    • 雑誌名

      Analysis and Applications

      巻: 20 ページ: 1295~1356

    • DOI

      10.1142/S0219530522400036

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Grain Growth and the Effect of Different Time Scales2022

    • 著者名/発表者名
      Barmak Katayun、Dunca Anastasia、Epshteyn Yekaterina、Liu Chun、Mizuno Masashi
    • 雑誌名

      Association for Women in Mathematics Series

      巻: 31 ページ: 33~58

    • DOI

      10.1007/978-3-031-04496-0_2

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] Long-time asymptotic behavior for a non-linear Fokker-Planck model with spatial inhomogeneous free energy2022

    • 著者名/発表者名
      水野 将司
    • 学会等名
      京都大学 NLPDE セミナー
  • [備考] 日本大学理工学部数学科 水野将司 Webpage

    • URL

      http://www.math.cst.nihon-u.ac.jp/~mizuno/

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公開日: 2023-12-25  

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