研究実績の概要 |
昨年度に引き続き, 研究の目的は偏微分方程式で記述される問題の解の幾何学的性質の探求を主眼に, 偏微分方程式を介在として, 近年発展の目覚ましい幾何解析と逆問題の視点を有機的に結びつけ, それらをより一層発展させることである。本年度の主な研究成果は以下の2つである。共に国際共同研究である。 (1) 球対称な障害に対する2種の優決定障害問題の対称性を示したことである。一つは Serrin 型の問題, つまり, 境界上で解の法線方向微分が一定となる優決定条件を扱い, 比較定理のみを用いることにより球対称解の安定性も示した。もう一つは二相導体に対する優決定障害問題の対称性をSerrin(1971年)の平面移動法により示した。後者の場合は界面上で解が一定となる優決定条件を導入した。これらの成果はコーネル大学の arXiv にプレプリントとして公開すると同時に学術雑誌に論文を投稿中である。 (2) 平面凸領域の斉次ノイマン境界条件下でのラプラス作用素の固有値は一般に凸領域の包含関係についての単調性を持たないことがよく知られているが, このことに関連した二つの形状最適化問題(内部問題と外部問題)を導入し, 解の存在,定性的性質,数値解析の端緒となる成果を得た。与えられた自然数 k に対して, 内部問題は与えられた平面凸領域 D に対して, Dの部分凸領域で第k固有値を最小にする凸領域を求めるものであり, 外部問題は D を含む凸領域で第k固有値を最大にする凸領域を求めるものである。これらの成果もコーネル大学の arXiv にプレプリントとして公開すると同時に学術雑誌に論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
優決定境界値問題の研究は多いが, 本研究のような球対称な障害に対する優決定障害問題は扱われて来なかった。前者はその端緒となる成果である。また, 斉次ノイマン境界条件下でのラプラス作用素の固有値の性質は斉次ディリクレ境界条件下に比べて未知なことが多く, 後者もその端緒となる成果である。共に幾何解析の新展開であり, 今後の発展が十分期待される。
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