研究課題/領域番号 |
22K03418
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
中村 俊子 (荻原俊子) 城西大学, 理学部, 教授 (70316678)
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研究分担者 |
中村 健一 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (40293120)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 比較定理 / 順序保存力学系 / 解の漸近挙動 / 進行フロント波 / ロトカ・ヴォルテラ2種競争拡散系 |
研究実績の概要 |
以下の通り研究を行い、成果を得た。 生物種の移入可能性やブロッキング現象に生態系のネットワーク構造や環境条件が与える影響を調べるために、星状グラフ上でロトカ・ヴォルテラ2種競争拡散系を考察し、フロント波がジャンクションを通過および停止するための条件を明らかにした。とりわけ、空間1次元問題のフロント進行波の速度の定量的な評価を利用することにより優解および劣解を構成し、2種の競争力の差が大きければフロント波がジャンクションを通過できること、および、2種の競争力の差によらず、フロント波が通過できないジャンクション構造を持つ星状グラフの形状を明らかにした。 また、ロトカ・ヴォルテラ2種競争拡散系の空間1次元問題に対し、2種の競争関係が強い場合における双安定型進行フロント波の速度について、変分的手法を用いることにより、新たなパラメータ領域において速度の符号が決定されることを明らかにした。特に、2種の競争係数間に大きな差がある場合には、拡散係数や純増殖率の比によらず、進行フロント波の速度の符号が定まることも示した。 生物モデルの重要な例の中に比較定理が成り立つクラスがあり、本研究では、このことに着目した順序保存力学系の一般論の構築も目的の1つである。順序保存力学系の研究においては、ある種の強い意味での比較定理が成り立つことを課していることが多く、適用できない例も少なくない。比較的理が成り立つ質量保存系に対し、より弱い仮定の下での平衡点の存在および解の挙動を明らかにした。さらに、幾つかの微分方程式モデルの解析に応用し、平衡解や時間周期解の存在を示すと共に解の漸近挙動を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物種が新たな生息地に移入可能であるための環境条件やパラメータ条件を明らかにする第1歩として、星状グラフ上でロトカ・ヴォルテラ2種競争拡散系を考察し、フロント波がジャンクションを通過できる条件および通過できない条件を調べ、得られた成果を学術雑誌に発表した。また、ロトカ・ヴォルテラ2種競争拡散系の空間1次元モデルに対し、これまで知られていなかったパラメータ領域において進行フロント波の速度の符号を決定できた。成果は学会等で発表すると共に、現在論文にまとめている。質量保存則が成り立つ順序保存力学系の研究についても、より弱い仮定の下で平衡解や周期解の存在および解の漸近挙動に関する成果を得ることができ、研究会で発表すると共に、論文にまとめているところである。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に得た成果をもとに、生物種がより新たな生息地に移入可能であるための環境条件やパラメータ条件の導出を進める。星状グラフ以外に、複数のジャンクションを持つ形状をした領域上のモデル方程式の数学解析を行い、生物多様性を担保できる生息域のネットワーク構造などを明らかにする。2つの分岐点を持つメトリックグラフ上の単独方程式の解析から着手し、領域の形状がより複雑な場合やロトカ・ヴォルテラ2種競争拡散系などの連立系の解析に移行していく。また、ロトカ・ヴォルテラ2種競争拡散系の進行フロント波の速度評価に対しては、速度の符号が不明であるパラメータ領域は速度の符号が決定されている領域に比べはるかに広いが、比較関数の構成に工夫を凝らし引き続き取り組む。順序保存力学系における一般論の構築については、生物モデル以外に経済モデルなどでもより弱い順序保存性しか満たさないモデルが知られており、それらを統一的に扱える理論の整備を試みることを通して、比較定理が果たす役割の本質を見極め本研究の推進に役立てる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴いオンライン開催の学会や研究会が多く、また、海外渡航も控えており、旅費使用が予定より少なかった。対面開催の学会や研究会が増えており、それらへの参加や海外共同研究者招聘に旅費の使用を計画している。また、使用しているノートPCの性能不足を感じるようになっており、新規に購入する予定である。
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