研究課題/領域番号 |
22K03427
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研究機関 | 阿南工業高等専門学校 |
研究代表者 |
西森 康人 (西森康人) 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 講師 (00712796)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 分枝ブラウン運動 / maximum displacement / Feynman-Kac functionals / 分枝マルコフ過程 |
研究実績の概要 |
分枝ブラウン運動の最遠方粒子までの距離に関する研究を行った。時刻tにおいて、原点から最も遠くにある粒子までの距離をL(t)で表す。分枝ブラウン運動から新たに定まるL(t)も確率過程である。このL(t)を適当な意味で‘近似’する非確率的関数R(t)を求めることが本研究の目的である。 このR(t)を適切に定めることにより、半径R(t)の球面付近に存在する粒子の分布が、tを無限大にしたときに、ある確率変数をパラメータに含むポアソン分布に収束することを示した。これは時刻tが十分大きいとき、半径R(t)の球の表面付近にL(t)を実現する粒子とそれに近い粒子がどれくらい存在するか、という問いを明らかにできた結果である。しかも関数R(t)は次元数を含む。これは1次元の場合に知られていた結果よりも精密であり、新しい発見である。この論文が論文雑誌 Acta Applicandae Mathematicae に掲載されることが令和5年3月に決まった。 次にL(t)とR(t)の誤差に関する研究に取り組んだ。つまり、L(t)-R(t)を適当なtの関数で割って、tを無限大にする極限を考えたとき、それがある定数に収束するかどうかを明らかにする研究である。1粒子の運動がブラウン運動に従う場合と対称安定過程に従う場合の2つについて研究に取り組んだ。1次元分枝ブラウン運動に関する先行研究であるBocharov(2021)の論文を読んで、その手法を学び、この方法を前述の2つのモデルに適用することを試みた。その研究過程で後者の対称安定過程のモデルについて、新しい発見があった。それは分枝対称安定過程に対するL(t)が指数的に増大するだろうという予測である。これについては次年度に明らかにすることを目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時刻tで、原点から最も遠くにある粒子までの距離をL(t)としたとき、それを近似するR(t)を求め、半径R(t)の球面付近に存在する粒子の極限分布を求めることで、L(t)やこれに追随する粒子の分布や配置が長時間経過後にどのように決まるかが明らかになる。1次元分枝ブラウン運動で、分裂頻度が原点でのディラック測度によって決まる基本モデルについて、Bocharovは時刻tで一番右側の粒子の(左)近傍に位置する粒子の極限分布を決定した。報告者は、この先行結果を、1次元以上の分枝ブラウン運動で、分裂頻度が台がコンパクトな加藤クラス測度によって決まるモデルに拡張した。この結果を論文として(論文雑誌)Acta Applicandae Mathematicae に投稿した。その査読をクリアし、令和5年3月に掲載が決まった。 その後、L(t)とそれを近似する非確率的関数R(t)の誤差の評価について取り組んでいる。1次元分枝ブラウン運動で分裂頻度が原点でのディラック測度から決まるモデルについては、Bocharovにより結果が与えられている。この手法をもとにして、彼の結果を、分裂頻度が台がコンパクトな加藤クラス測度によって決まり、1粒子の運動がそれぞれブラウン運動に従う場合と対称安定過程に従う場合のd次元モデルへの拡張を並行して行っている。その研究過程で、分枝対称安定過程においては、L(t)が指数的に増大すると予想できた。そして、この証明の骨子も出来上がっており、論文発表のための準備を行っている。また、前述の誤差を評価するためには、粒子数の1次、2次モーメントの漸近的評価が必要になる。この漸近的評価については、先に掲載が認められた論文をもとにして、必要な精度を有した評価が概ね得られている。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
時刻tにおいて、原点から最も遠くにある粒子までの距離L(t)の研究はそれを定めるモデルごとに行われている。そのモデルを大別するのは、(1)空間の次元、(2)1粒子の運動法則、(3)分裂法則である。1次元分枝ブラウン運動をベースにし、分裂が空間的に一様に起きたり、局所的に起きたりするモデルが主流のようである。報告者は、この1次元のモデルにおいて、L(t)の漸近的性質を解析するために開発されたアイデアを援用し、多次元および1粒子の運動法則をブラウン運動から対称安定過程へと一般化したモデルに対するL(t)の漸近的性質の理解を深めることを目標としている。 今後の研究の進め方は、まず1次元の場合について既存の研究結果を調べ、そこで用いられている手法を身に着けることである。それを基にして、次のモデルに対するL(t)の漸近的性質を明らかにする。①1次元分枝対称安定過程で、分裂法則は原点でのディラック測度もしくは台がコンパクトな加藤クラス測度から決まる場合。② ①のd次元分枝ブラウン運動の場合。③ ①のd次元分枝対称安定過程の場合。④ ②、③で空間全体で分裂が起きる場合。特に、①から③がこれまでの研究の延長にある研究対象である。一方、④はこれまでの研究とは趣が異なる研究対象である。まずは、①から③について研究を行い、それから④についての研究に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度開催予定である研究集会の会場費・人件費等を考慮して、次年度へ繰り越すことにした。
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