研究課題/領域番号 |
22K03442
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山崎 義弘 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10349227)
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研究分担者 |
大森 祥輔 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (70777979)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超離散力学系 / 離散力学系 / トロピカル差分 / max-plus方程式 |
研究実績の概要 |
連続系とセルオートマトン系の対応問題はWolframの9番目の問題として知られており、超離散化はこの問題に対するアプローチの1つと考えられている。超離散化は、SIRモデル、炎症反応のモデル、Fisher-KPP方程式、Allen-Cahn方程式、Gray-Scottモデル、反応拡散モデル、1次元力学系の標準型、Sel'kovモデル、van der Pol方程式などの非可積分なモデルにこれまで適用されてきた。ここで重要な点は、超離散化された方程式が元の方程式の力学的特徴をいかに保持しているか、また超離散化によって新たな力学的特徴がいかに導入されるかという点であり、導出された超離散系の力学的性質を明らかにし、元の系の性質と比較することは重要である。 本研究では、超離散Sel'kovモデルにおける2つの極限サイクルC, C_sの力学的性質を解析的に調べた。極限サイクルのポアンカル写像を構築し、その安定性を明らかにした。その結果、Cはattractive, C_sはrepulsive であることがわかった。また、Csのベイスンについては、不安定な固定点の周りに特異的に分布しており、自己相似性を持っていることが分かった。さらに、可積分区分線形写像によって、超離散Sel'kovモデルにおける時間発展を状態空間中の多角形Γとして表現することができた。そして、上述のポアンカル写像がΓの線分の内部分割点の写像と関連していることを明らかにした。このポアンカレ写像のアプローチは、他の超離散系における周期構造にも応用できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1次元分岐現象(transcritical, saddle-node, pitchfork 分岐)の標準型から得られるmax-plus方程式の解析を発展させた。先ずは1次元に問題を限定し、一般論の大まかな枠組みを捉えることにした。具体的には、連続力学系に対するトロピカル差分式の動力学的構造を解析した。また、超離散方程式の解との比較を行い、離散モデルと連続モデルとの関連を明らかにした。さらに、piecewise-smooth dynamical systemsでみられるBorder Collision (BC)分岐との対応を議論した。現在、2次元分岐現象に対して、同様の議論を行い、Neimark-Sacker分岐に対する考察を行っている。 また、Selkovモデルならびにnegative feedback modelの解析を行った。具体的には、位相を導入した数値解析並びにポアンカレ写像に基づく解析を行った。また、超離散可積分系に対する解析法であるQRT写像との関連に着目した解析も行った。
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今後の研究の推進方策 |
(1)一般化Selkovモデルの解析を行い、準周期構造の出現機構を解明する。モデルに含まれているパラメータに基づく分岐解析を行い、出現する状態を相図によって分類する。なお、一般化SelkovモデルはBC分岐の二次元標準型と関係しており(S. Banerjee 1999)、それぞれのモデルから得られる解の挙動を比較する。 (2)Willox氏らによる解析を発展させ、連続モデルに対してトロピカル差分化した式に含まれる時間刻みをパラメータとみることによって、連続から超離散への変化を転移現象として理解する。そこで、先ずは、1次元力学系において、分岐現象の標準型をトロピカル差分した式を数値計算し、対応するmax-plus 方程式の解と直接比較することによって、転移の機構を明らかにする。さらに、2次元系で得られるリミットサイクルに対して位相を導入することにより、連続と超離散の間で生じる転移を位相の状態分布の変化として明確に提示する。1次元力学系の場合と同様、時間刻みをパラメータとした転移現象としてとらえ、位相ダイナミクスの観点から超離散状態の起源に迫る。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】新型コロナウィルス感染拡大のため、いくつかの出張がなくなり、そのために確保していた旅費を使用することができなかったため。 【使用計画】2023年度、積極的に研究発表を行うことにより、旅費として使用する。
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