研究課題/領域番号 |
22K03451
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
吉村 和之 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (40396156)
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研究分担者 |
土井 祐介 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10403172)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 非線形格子 / 熱伝導 / ポテンシャル対称性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、固体の熱伝導過程について熱抵抗が生じる微視的メカニズムを、1次元非線形格子のダイナミクスに基づき理論的に解明することを目的としている。研究計画では、以下を予定している。第1段階で、熱抵抗に関するPeirels仮説「非線形格子のフォノン相互作用において、Normal過程のみ存在しUmklapp過程が無い場合には熱抵抗が消失する」の正否に関する厳密な結果を得る。第2段階で、非線形フォノンの概念を明確に定義し、その数理的性質を明らかにする。第3段階以降で、Umklapp過程が無い非線形格子モデル(UFL) とその摂動系を用いて、熱抵抗の起源と考えられる非線形フォノンを反射する散乱過程とその特性を明らかにする。 2022年度は、上記の第1段階に相当する部分を実施した。1次元非線形格子のポテンシャル関数に関して、NP対称性という概念を導入した。NP対称性については、「Umklapp過程が無い⇒NP対称」が成り立つ。周期境界条件を課したNP対称格子に対して、弱非線形領域かつ一定の条件が満たされるとき、温度勾配が無い状態でも初期条件として与えた熱流束が消失しないことを示す定理を、古典力学と量子力学の両方において証明した。これは、一定条件下で熱抵抗が消失することを示す定理であり、Peirels仮説を部分的に正当化する厳密な結果といえる。この成果により、第1段階の目標をある程度達成したと思われる。本成果は、学術論文誌Physica Dに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の当初計画は、以下の項目(1),(2)であった。(1)Peirels仮説の正否に関する厳密な結果を得ること。(2)特定のUFL に限定して、熱エネルギー輸送波の候補である非線形フォノン解の定義を与える。 項目(1)については、Peirels仮説を部分的に正当化する厳密な結果として、古典力学での熱流束非緩和定理を示した。計画通りの成果を得ることができた。さらに、計画外の成果として、研究組織外部との共同研究により量子力学的な同様の定理を示すこともできた。これらの成果は、学術論文誌Physica Dに発表した。項目(2)については、非線形フォノン解の定義に必要な予備調査を実施した。しかしながら、予定の作業進捗には至らなかった。 上記(2)に関して当初計画からの遅れを生じたが、(1)については、計画通り実施し、さらに計画外の成果を得ることができた。以上を踏まえ、現状について「おおむね順調に進展している。」と総合的に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に、NP対称性の導入と熱流束非緩和定理を示し、計画の第1段階をほぼ完了した。2023年度は、第2段階である非線形フォノンの定義と解析を進める。Umklapp過程が無い非線形格子モデル(UFL)に対して、非線形フォノンと見做すことができる平面進行波の厳密解が、一部波数領域については既に得られている。これ以外の波数領域における準平面進行波解の存在証明の研究を進める。また、UFLと密接な関係がある対称格子としてPISLモデルが既に得られている。PISLにおける非線形フォノンの調査も並行して進める。その後、UFLおよびPISLの摂動系について、近似的な非線形フォノンの存在可能性を調査する。上記第2段階に加えて、第3段階として、UFLおよびPISLの摂動系を用いた非線形フォノン散乱過程の数値シミュレーション準備を進めることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を計画していたGPUワークステーションの価格高騰により購入困難とり、代替品としてスペックの異なる安価なGPUデスクトップパソコンの購入したため。当該助成金は、次年度の物品費、学会および打ち合わせ旅費の一部として使用する。
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