研究課題/領域番号 |
22K03460
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
高岡 正憲 同志社大学, 理工学部, 教授 (20236186)
|
研究分担者 |
佐々木 英一 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (60710811)
横山 直人 東京電機大学, 工学部, 教授 (80512730)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 局所フラックスベクトル / 異種共存乱流 / 非等方性カスケード / Charney-Hasegawa-Mima乱流 / 成層乱流 / 回転乱流 / 臨界平衡 / 共鳴相互作用 |
研究実績の概要 |
非等方性の波動乱流と等方性の渦乱流とが共存する異種共存乱流の特性を、我々の提案した局所フラックスベクトルを使い各保存量に対する非等方性のあるカスケードを定量化して調べてきた。令和5年度は、2次元系であるCharney-Hasegawa-Mima (CHM) 方程式を中心として、3次元の成層乱流や回転乱流を含めた現有データの整理と昨年度の遅れを取り戻すことに注力した。非局所相互作用の影響を評価するためには大規模かつ長時間の計算が必要であり、2次元系を中心に新たな数値シミュレーションを行った。 3次元の成層乱流や回転乱流の非等方なエネルギーカスケードを局所フラックスベクトルにより定量的に評価した結果を再考した。弱乱流理論によると、波動乱流の現れる低波数域では共鳴相互作用の非等方性と、成層乱流では非局所性と回転乱流では局所性をもつエネルギー輸送が有ることが知られている。局所フラックスベクトルは局所性の仮説の基に導出されているが、両乱流ともにこの弱乱流理論の予測と矛盾しないという興味深い結果を示した。波動乱流が卓越する低波数の極限において波数空間のエネルギー輸送を表す非線形の拡散型方程式が導出されているので、局所フラックスベクトルの導出との関係を調べている。成層乱流で2件、回転乱流で1件を国際学会で口頭発表した。 2次元のCHM方程式に対する我々の一連の研究成果が評価され、プラズマ・核融合学会誌の小特集へのレビュー論文の執筆を依頼された。そこに記された結果を発展させるために、3種の保存量(エネルギー、エンストロフィ、ゾノストロフィ)のカスケードと帯状流を基本とする実空間構造の生成維持機構との関係およびRossby半径(プラズマではLarmor半径)でのカスケードのブロッキングを調べている。研究成果2件を国際学会で口頭発表し、査読付き学術論文としての投稿準備を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究状況はかなり改善されたとはいえ、昨年度の進捗状況の遅れを取り戻すには至っていない。波数空間のエネルギー輸送における非局所相互作用を取り込みその影響を評価するために、昨年度より各方向に2倍のモード数を用いた一回り大きい規模の数値シミュレーションを行い、統計的定常状態の長時間データを得てその平均場から局所フラックスベクトルを求めようとしているが、想定していたほどパラメターを変えることが出来ていない。モード数を減らすためにシェルモデルも構築しシミュレーションをしたが、定常状態に達するまでに長時間の計算が必要な上に、統計量の揺らぎを小さくするには想定していたよりも多くのサンプルが必要なことが分かった。系の対称性を利用してモード数を減らすことも有効だと考えている。 また、CHM方程式の非線形解であるモドンの利用を考えていたが、最適なサイズと個数と配置を決定するには自由度が多すぎて手探りの状態である。まずは、KawaharaとTohによって提案されたソリトン格子のようなモデルから相互作用を評価し、適切なパラメターを探索するのが効率的ではないかと考えている。 3次元の成層乱流や回転乱流で長時間の計算をすると、計算領域に匹敵する最低波数に大きなエネルギーを持つ大規模な非等方性の構造が発達し、低波数域でのエネルギーのパワースペクトルが急峻となり、低波数域の励起モードと高波数域のモードとの非局所相互作用と境界条件の影響とが混在するようになってしまう。そのため、実空間と波数空間との双対性に基づくエネルギーフラックスの解析が思うように出来なかった。低波数域に適切な摩擦などを入れることにより改善できるものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
実空間と波数空間との双対性に基づくエネルギーフラックスの解析を行うという基本方針は堅持するが、波数空間の概念を少し拡張して考えることにする。波数空間は線形微分作用素の固有空間であるが、非局所相互作用を記述するのに適しているとは限らない。非線形解は多くの波数モードを内在しており、その相互作用を利用して非局所相互作用を取り込むことを考えている。実空間で局在した非線形解の相互作用を保存量の波数空間での流という視点から調べる。 成層乱流や回転乱流といった3次元非等方性乱流では、依然として計算規模およびサンプル数が不足しているため、対称性を利用したモード数の低減や位相乱雑化による並列化を利用したサンプル取得などの利用を考えている。また、最低波数へのエネルギー凝縮を抑制・除去するために、低波数域に摩擦に相当する機構、またはラージエディーシミュレションの逆のスモールエディーシミュレーションのようなモデルを取り入れることも考えている。 幸いなことに、これまで使用してきた九州大学情報基盤研究開発センターの計算機が次年度にリプレースされる予定なので、より規模の大きな数値シミュレーションをする環境が整うことになる。リプレースによる休止期間に注意しながら研究を進めることになる。 波動乱流を対象とした弱乱流理論が適用可能な状況では、波数空間の相互作用の局所性とは独立な時間的な共鳴相互作用が重要な役割をする。他方、2次元および3次元の回転乱流において、波動乱流が卓越する低波数の極限において波数空間のエネルギー輸送を表す非線形の拡散型方程式が導出されている。これらの時間的共鳴相互作用と非線形の拡散型方程式を調べることで、局所フラックスベクトルに非局所相互作用の効果を取り込むことを考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた主な理由は、現在までの進捗状況にも記したように前年度までの遅れを取り戻せていないことによる。令和5年5月8日からCovid-19は5類相当の扱いとなったが、長期的な計画を立てることが難しく、国際学会や規模の大きな学会の申込は半年から3ヶ月前であり、急な変更に対応するために旅費宿泊費を確保しておく必要があったためである。 令和6年度は、国内の出張はもとより海外出張にも行きやすくなり、既に、8月の26th International Congress of Theoretical and Applied Mechanics(韓国)や、9月の理論応用力学講演会や 1st European Fluid Dynamics Conference(ドイツ)での口頭発表が決まっている。加えて、物理学会、流体力学会やアメリカ物理学会Division of Fluid Dynamics年会など、国内外の学会での成果発表に使用する予定である。 また、異種共存乱流の実現にはスケールが分離されるほどに広い波数空間が必要である。この大規模数値シミュレーションのために、九州大学情報基盤研究開発センターの全国共同利用研究用計算機を用いるので、その利用負担金にも使用する予定である。更に、シミュレーション結果の時系列や種々の解析場のデータを保存するために、大容量のデータストレージも購入する予定である。
|