• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実施状況報告書

複雑ネットワークにおけるフラクタル性発現のメカニズム

研究課題

研究課題/領域番号 22K03463
研究機関北海道大学

研究代表者

矢久保 考介  北海道大学, 工学研究院, 教授 (40200480)

研究分担者 小布施 秀明  北海道大学, 工学研究院, 准教授 (50415121)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード複雑ネットワーク / フラクタル / 長距離次数相関
研究実績の概要

本研究の目的は、複雑ネットワークにおけるフラクタル性がSOCダイナミクスと非SOC的な小グラフの凝集過程の二種類の機構によって生じる得ることを明らかにし、その形成機構に応じた構造制御を行うことで機能性ネットワークをデザインする方策を見つけることである。この目的のため令和4年度では、確率的な逆繰り込み操作に基づく微小グラフの凝集モデルであるマルチジェネレーター・モデルを構築した。このモデルは、以前に我々が構築した決定論的階層モデルを確率過程に拡張したものであり、前世代におけるネットワークの1本のエッジをジェネレーターと呼ばれる複数の微小グラフの一つに確率的に置き換えることによって逐次的に次世代ネットワークを構成する時間発展モデルである。本研究では、マルチジェネレーター・モデルによって構築されたネットワークが長時間後にはフラクタル性とスケールフリー性を有する構造を持つようになることを解析的に示した。本モデルの最大の特徴は、どのジェネレーターに置き換えられるかを決める確率変数の値を制御することによって、フラクタル次元やスケールフリー指数のみならず、クラスター係数、長距離次数相関、頑強性等を連続的かつ自由にコントロールすることができることにある。また、モデルが比較的単純であるため、形成されたネットワークの構造を特徴付ける様々な指標は解析的に求めることができ、本研究ではこうした指標に対する解析的表式が正しいことを数値計算によって検証した。
さらに、令和4年度の研究では、マルチジェネレーター・モデルによって形成されたネットワークは単純なフラクタル構造を取るのではなく、ハブと呼ばれる高次数ノード近傍の局所フラクタル次元とハブから離れた低次数ノード近傍の局所フラクタル次元が異なる値を持つ「バイフラクタル構造」を取るという注目すべき事実を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

自然界に遍在するフラクタル構造の多くが自己組織化臨界性(SOC)によって形成されることは良く知られている。一方、現実世界の複雑な関係性をネットワークで記述した場合、その構造の多くも最短経路長という長さスケールの意味で、やはりフラクタル性を示す。しかしながら、現実ネットワークが必ずしもSOCを示す時間発展に従うわけではない事を考えると、複雑ネットワークにおけるフラクタル性の起源には、SOC的機構と非SOC的な機構があるものと予想される。本研究の目的は、このような2種類の機構に基づくフラクタル・ネットワーク形成モデルを構築し、それらによって作られるネットワークの性質を詳細に調べ、比較検討することである。令和4年度の研究結果は、グラフ・モティーフによる確率的逆繰り込み成長という非SOC的ダイナミクス(マルチジェネレーター・モデル)によってフラクタル性が生じることを示しているため、本研究の目的の半分は達成されたと言える。令和4年度の研究では、本モデルによるネットワークがバイフラクタル構造を取ることも明らかにしている。バイフラクタル構造とは、系の局所構造が2つの異なるフラクタル次元で記述されるようなフラクタル構造である。本研究では、マルチジェネレーター・モデルで作られた無限ネットワークにおいて、無限次数ノード(ハブ)近傍のフラクタル次元とハブから無限に離れた有限次数ノード近傍のフラクタル次元が異なることを解析的に明らかにした。ネットワーク上の様々な現象はバイフラクタル性の影響を強く受けるものと考えられるため、現実ネットワークがこのような性質を持つか否かを明らかにすることは極めて重要である。非SOC的メカニズムで形成されたフラクタル・スケールフリー・ネットワークのバイフラクタル性は研究計画当初に予定していなかったものであることから、研究は予定以上に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

令和4年度の研究により非SOC的時間発展によるフラクタル・ネットワークの形成モデルが構築できたので、令和5年度には現実を反映したSOCダイナミクスに基づくフラクタル性発現のメカニズム解明を行う。具体的には、我々が以前提唱した地理的ネットワーク・モデルとBak-Sneppenモデルを融合させることで、生物や社会におけるコロニー形成をネットワークの時間発展としてモデル化する。まずこのモデルを数値的に時間発展させ、コロニーを構成するネットワークの次数分布、フラクタル次元、雪崩サイズ分布のベキ指数を求める。また、コロニー重心の運動がLevy飛行となることをシミュレーションにより明らかにする。次に、このモデルの時間発展を解析的に扱い、雪崩サイズ分布の指数やコロニー・ネットワークのフラクタル次元、Levy飛行の指数を求め、数値計算結果と比較する。これにより、コロニー形成を記述するSOCダイナミクスによるフラクタル性発現のメカニズムを理解する。
一方、マルチジェネレーター・モデルにより形成されたネットワークがバイフラクタル構造を取ることが令和4年度の研究により明らかとなった。ネットワーク上の諸現象は構造のバイフラクタル性に強く影響されると予想されるため、このバイフラクタル性がマルチジェネレーター・モデルに固有な性質なのか、SOC機構により形成されるフラクタル・ネットワークにも見られる性質なのか、さらにはフラクタル・スケールフリー・ネットワーク(FSFN)全てに共通する性質であるのかを明らかにすることは非常に重要である。令和5年度以降は、多様なFSFNのバイフラクタル性を解析的に調べることでこの問題を解決する。さらに、バイフラクタル・ネットワーク上の古典ランダム・ウォーク、および量子ウォークを考え、バイフラクタル性がネットワーク上のダイナミクスに与える影響を明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

世界的な新型コロナウィルス感染拡大により、令和4年9月まではほぼすべての国際会議・シンポジウムが中止となった。10月以降は政府の水際対策が緩和されたものの、研究成果の発表はオンラインでの国際会議、国内学会、および論文投稿が中心となった。そのため、旅費の支出額がゼロとなり、令和4年度の予算額に残余が生じることとなった。令和5年度は積極的に国際会議・国内学会等で研究成果を発表するよう努めるが、予算額の残余を有効に活用するため、当初予定していた計算サーバーより上位機種のUNIX計算サーバーを備品として購入し、大規模な数値計算を遂行する。

  • 研究成果

    (17件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)

  • [雑誌論文] Topological Phases in a PT-Symmetric Dissipative Kitaev Chain2023

    • 著者名/発表者名
      Makio Kawasaki, Hideaki Obuse
    • 雑誌名

      JPS Conference Proceedings (LT29)

      巻: 38 ページ: 011165-1--6

    • DOI

      10.7566/JPSCP.38.011165

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Proposal of multidimensional quantum walks to explore Dirac and Schrdinger systems2023

    • 著者名/発表者名
      Manami Yamagishi, Naomichi Hatano, Ken-Ichiro Imura, Hideaki Obuse
    • 雑誌名

      Physical Review A

      巻: 107 ページ: 042206-1-14

    • DOI

      10.1103/PhysRevA.107.042206

    • 査読あり
  • [雑誌論文] A general model of hierarchical fractal scale-free networks2022

    • 著者名/発表者名
      Kousuke Yakubo, Yuka Fujiki
    • 雑誌名

      PLoS ONE

      巻: 17 ページ: e0264589-1-22

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0264589

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Topological phases protected by shifted sublattice symmetry in dissipative quantum systems2022

    • 著者名/発表者名
      Makio Kawasaki, Ken Mochizuki, Hideaki Obuse
    • 雑誌名

      Physical Review B

      巻: 106 ページ: 035408-1-9

    • DOI

      10.1103/PhysRevB.106.035408

    • 査読あり
  • [学会発表] 接合系における非エルミート・トポロジカル相のバルクエッジ対応2023

    • 著者名/発表者名
      ファン ゴンフィ, 小布施秀明
    • 学会等名
      日本物理学会2023年春季大会
  • [学会発表] 2次元量子ウォークの提案:有効Diracハミルトニアンと(高次)トポロジカル相2023

    • 著者名/発表者名
      山岸愛, 羽田野直道, 井村健一郎, 小布施秀明
    • 学会等名
      日本物理学会2023年春季大会
  • [学会発表] Fractal Scale-free Networks are Bifractal2022

    • 著者名/発表者名
      Kousuke Yakubo
    • 学会等名
      JSPS-APCTP workshop on Roles of Heterogeneity in Nonequilibrium Collective Dynamics 2022 (RHINO2022)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Localizations in Non-Unitary Quantum walks with Point Gap Topology2022

    • 著者名/発表者名
      Hideaki Obuse, Ryo Okamoto, Naomichi Hatano, Kousuke Yakubo, Norio Kawakami
    • 学会等名
      Localisation 2022
    • 国際学会
  • [学会発表] Multifractality at the Anderson Transition of 1D Non-Unitary Quantum Walks2022

    • 著者名/発表者名
      Hideaki Obuse, Kousuke Yakubo, Naomichi Hatano
    • 学会等名
      29th International Conference on Low Temperature Physics
    • 国際学会
  • [学会発表] Topological phases protected by shifted sublattice symmetry in open quantum systems2022

    • 著者名/発表者名
      Makio Kawasaki, Ken Mochizuki, Hideaki Obuse
    • 学会等名
      29t International conference on Low Temperatures
    • 国際学会
  • [学会発表] Topological phases protected by shifted sublattice symmetry in dissipative quantum systems2022

    • 著者名/発表者名
      Makio Kawasaki, Ken Mochizuki, Hideaki Obuse
    • 学会等名
      Ultracold Atoms Japan 2022
    • 国際学会
  • [学会発表] Bifractal Nature of Fractal Scale-Free Networks and Its Implications2022

    • 著者名/発表者名
      山本潤, 下條源太郎, 矢久保考介
    • 学会等名
      ネットワーク科学研究会2022
  • [学会発表] ヘリカル境界条件を有する2次元量子ウォークの実現に向けてI ~ 花弁状ビームの生成と評価 ~2022

    • 著者名/発表者名
      岡本悠太郎, 小布施秀明, 竹内繁樹, 岡本亮
    • 学会等名
      量子情報技術研究会 QIT46
  • [学会発表] 1次元非エルミート量子ウォークのアンダーソン転移におけるマルチフラクタル性2022

    • 著者名/発表者名
      小布施秀明, 京極淳人, 矢久保考介, 羽田野直道
    • 学会等名
      日本物理学会2022年秋季大会
  • [学会発表] 非エルミートハミルトニアンによるネットワーク上の量子輸送2022

    • 著者名/発表者名
      羽田野直道, 井村健一郎, 川畑幸平, 小布施秀明
    • 学会等名
      日本物理学会2022年秋季大会
  • [学会発表] 二次元非エルミート量子ウォークによる量子アクティブ粒子の運動2022

    • 著者名/発表者名
      山岸愛, 羽田野直道, 小布施秀明
    • 学会等名
      日本物理学会2022年秋季大会
  • [学会・シンポジウム開催] 国際会議 Localisation 20222022

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi