研究課題/領域番号 |
22K03470
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
許 宗ふん 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (50325578)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 液晶電気対流 / ノイズ / ゆらぎ / 確率共鳴現象 / 逆確率共鳴現象 / カラーノイズ / 位相ノイズ |
研究実績の概要 |
液晶電気対流系を用いて「確率共鳴現象(Stochastic Resonance)」及び「逆確率共鳴現象(Inverse Stochastic Resonance)」を体系的に調べた.具体的には,それぞれの現象に対応する対流発生の閾値に対するノイズ依存性を調べ,以下のような知見と成果を得た. (1)従来のホワイトノイズよりカラーノイズがこれらの共鳴現象の制御に効果的であることが分かった.ノイズの適切なカラー化(Low-pass filterのCutoff周波数の制御)によりノイズの自己相関時間を具体的に制御しながら調査できるようになった. (2)従来の振幅ノイズに加えて,位相ノイズもこれらの共鳴現象の制御に役に立つことが分かった.両ノイズを基の正弦波に加え,対流発生閾値の振る舞いを制御可能とした. (3)両ノイズのそれぞれのCutoff周波数の平面で,対流発生閾値の振る舞い,すなわち,確率共鳴及び逆確率共鳴の出現相図を作成し,その意義を応用的な側面で考察した. さらに,上記の数値解析結果を基に,これらの共鳴現象を実験でも再現できるようになった.上述の知見と研究成果をまとめ,世界トップジャーナルの一つである「Scientific Reports(Nature Springer社)」のオープンアクセス論文として発表した.この研究成果はこれまでそれぞれ独立で調査・発見された両共鳴現象がカラー化した振幅ノイズ・位相ノイズの混合で,相互の転移現象として世界で初めて発見されたものである.これからの応用研究が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に取り上げた調査項目,「振幅及び位相の変調を混合した状況での静止電気対流(Williams Domains)の調査」,すなわち,「確率共鳴現象及び逆確率共鳴現象の出現・制御」は,以下のような理由から概ねその成果が出たと判断できる. (1)先ず,当初予定していた数値計算(MATLAB)を用いて,Carr-Helfrichの1次元支配方程式(電荷密度及び液晶ディレクター場の変調)を調査できるようになった.Williams Domainsの発生・消滅を示す閾値の異常振る舞いを,確率共鳴現象及び逆確率共鳴現象と関連付けることができた.また,ノイズのCutoff周波数やパワースペクトルのエッジ効果(steepness)等を定量的に制御しなら調査できた. (2)次に,数値計算の結果を踏まえて,実験調査でも確率共鳴現象及び逆確率共鳴現象を両ノイズの制御によって観測できた.この実験調査のため(振幅及び位相ノイズを生成する)2台のノイズ・ジェネレーターを組み合わせ,自由度の高い実験システムを構築した. (3)最後に,確率共鳴現象及び逆確率共鳴現象の出現に関わる追加的な要素を調べるために,有力候補としてHelfrichパラメーター,また,カラーノイズのsteepnessを試し,次年度の具体的な調査項目を定めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では振幅及び位相ノイズを混合した状況で,①静止パターン及び進行波の発生条件及び時空間特性の変化を調査する.また,②局在化したパターンの発生条件と詳細構造(液晶のディレクター場)を含む発生メカニズムの解明ともにそのダイナミクスを調査する.前述した前年度の成果を踏まえて,以下のように調査を進める. (1)先ず,本研究を通してほぼ確立した確率共鳴現象・逆確率共鳴現象の転移を,新たな内部及び外部パラメーターを用いて,その転移点(振幅または位相ノイズの強度)を調査する.静止パターン(Williams Domains)の調査結果を評価した上で,進行波(Traveling Wave)と局在波(Localized Patterns)に取り組む. (2)次に,確率共鳴現象及び逆確率共鳴現象が世界で初めて観測されたMBBA液晶以外に,別の液晶(例えば,EBBA等)でこれらの現象を実験調査する.振幅及び位相ノイズの同時制御はこれまでの報告事例がなく比較対象がないため,いくつかの液晶で確かめる必要がある. 特に,上記(1)の外部パラメーターとして試すカラーノイズのsteepnessは,これまでの確率共鳴現象及び逆確率共鳴現象の研究で調査事例がなく,その結果はこれらの研究分野において波及効果が大いに期待できる.
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度はコロナ規制の影響で国内及び国際会議への参加・発表ができなかったため,次年度使用額が生じた.この使用額は現在投稿準備中のトップジャーナルの論文投稿費用(英文校正)とオープンアクセス費用に充てる予定である.また本来の次年度予算額は当初の予定(物品購入,国内外の旅費,人件費等)通りに執行する予定である.
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備考 |
所属大学のプレスリリーズとして大学ホームページに紹介された:この研究成果は、2023年10月7日(土)午前1時(日本時間)に英国の科学オープンアクセス誌「Scientific Reports (Springer Nature社)」に掲載されました.
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