研究課題/領域番号 |
22K03481
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒山 和幸 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20861602)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 半導体量子ドット / テラヘルツ光共振器 |
研究実績の概要 |
量子ドットや量子ポイントコンタクト(QPC)といったGaAs半導体中に形成されるナノ構造をオンチップのテラヘルツ共振器の近傍に作製することにより、ナノ構造を伝導する電子とTHz共振器との強結合状態を実現する実験を行った。極低温に冷却されたナノ構造に対して、THz電磁波を外部から照射し、そのときに現れるTHz誘起の電流変化(光電流)を入射周波数と面直磁場に関するスペクトルとして計測した。まず、QPCを形成して、光電流スペクトルを計測した結果、二次元電子のサイクロトロン励起と共振器とのコヒーレントな結合状態を示す反交差信号が観測された。特に結合強度を評価すると、この結合系が超強結合状態を達成していることが確認できた。さらにQPCを透過する量子ホールエッジチャネルの本数を制御することで、非常に明瞭な反交差信号の観測できることが分かった。オンチップのTHz共振器の超強結合状態に関する研究は非常に活発に行われているが、電気測定による観測は報告数が非常に限られており、未だ明瞭な信号を得ることは困難であった。本研究では、QPCを用いることで、単一の共振器であっても十分な信号を読み出すことに成功しており、今後超強結合系の理解の更なる進展に貢献するものと期待する。 次に、QPCに閉じ込めを強くすると、反交差信号の真ん中にもう一本別の信号が現れることが分かり、これはQPCにおけるサブバンド間の共鳴励起に起因するものと考えられる。さらに、この信号は、反交差信号の高エネルギー側のモードをより高エネルギー側に押し上げるような振る舞いをしており、QPCのサブバンド間励起もTHz共振器に結合していることが分かった。さらに、同様の振る舞いが量子ドットに対しても得られており、これは量子ドットに捕捉された電子の準位間共鳴励起とTHz共振器とのコヒーレントな結合状態を実現しているものと解釈している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、THz帯域においてオンチップの光共振器として機能するスプリットリング共振器(SRR)を作製し、その近傍に量子ドットやQPCなどのナノ構造を形成する試料を作製した。SRRは一重コイルの一か所にギャップを設けたような構造であり、そのギャップにおいて、非常に大きなTHz電場を誘起できることが知られている。そこで、その近傍に量子ドットなどのナノ構造を配置しておくことで、ナノ構造を伝導する電子の励起とSRRとを強結合させることが本研究の狙いである。その実験の結果、量子ドットの量子準位やQPCのサブバンドでの電子の共鳴励起とSRRとの結合を示唆する実験結果が得られている。 さらに、2つの量子ドットを、SRRを介して遠隔に相互作用させる実験も行う計画である。そこで、本研究では、共振器を介したより長距離の電子間相互作用を実現するために、SRR二量体の一次元配列に現れるトポロジカル効果を用いて、SRRの共振器を空間的に拡張する。このSRR二量体配列のトポロジカル状態においては、配列の両端にTHz電場を局在させることができ、かつ、配列上をロバストに電磁波を伝搬させることができると期待されている。したがって、このトポロジカル配列の両端に量子ドットを配置することで、数百μmオーダーの距離で量子ドットの遠隔相互作用を実現する。そこで、SRR二量体のトポロジカル効果について、有限要素法による数値シミュレーションを行った。その結果、配列の真ん中に電場の極大を持つ共鳴モード(バルクモード)と、配列の両端に電場の極大を持つ共鳴モード(端モード)が異なる励起周波数で現れることがわかった。後者が、トポロジカル効果によって現れた端状態であると考えており、SRRの大きさや間隔を最適化し試料作製のためのデザインを決定した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で明らかになっている問題点は、SRR近傍の二次元電子のプラズモン励起信号が量子ドットなどの光電流スペクトルに現れてしまうことである。以前の試料では、SRRを二次元電子系の上に作製したために、スプリットリング共振器の直下の二次元電子を空乏化すると、共振器の構造に起因した有限の幅を持った二次元電子系が形成される。そのような有限幅の二次元電子系においては、プラズモン励起が起きることが知られており、今回行った実験でも、SRRの内部やギャップに励起される様々なプラズモン励起がQPCや量子ドットの光電流スペクトルに現れることが分かった。これらのプラズモン励起もSRRにかけるゲート電圧に依存して非常に興味深い振る舞いをすることが分かってきたが、同時に、QPCや量子ドットの共鳴エネルギーと近い値を取るために、スペクトルの解釈を非常に困難にしていた。そこで、これらのプラズモン励起が起きないように、SRR直下の二次元電子層を選択的にエッチングし、量子ドットの近傍にだけ二次元電子が残るような試料構造に改良することを試みている。既に試料作製に取り掛かっており、今後できるだけ早い時期に実験を開始する予定である。 また、SRRトポロジカル配列の実験も開始する。数値計算で得た端モードを外部励起し、その時にTHz電場が配列の両端に局在していることを確認する実験を行う。そのために、SRR配列近傍のTHz電場の空間分布を観測する実験を行う。現時点では、LiNbO3基板上に配列構造を作製し、電気光学効果によって、THz電場の空間分布を測定する予定である。現在は電子線露光による試料作製を開始しており、できるだけ早い時期に実験へ移行する予定である。
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