研究課題/領域番号 |
22K03482
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小森 文夫 東京工業大学, 物質理工学院, 研究員 (60170388)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 重い電子系 / f電子 / 原子層 / 第一原理計算 / 走査トンネル顕微鏡 |
研究実績の概要 |
本研究では、近藤共鳴状態を持つCe原子を2次元格子状に配列している系をPt(111)面上のエピタキシャルCePt2原子層で実現し、その電子状態を調べている。実験研究では、光電子分光、軟X線分光および準粒子干渉を用いて、この系のスピン依存電子状態を調べ、第一原理計算(DFT)による電子状態計算結果と比較し、Ce4f電子と遍歴電子との相互作用をパラメタとする2次元Ce近藤格子の電子状態を解明することを目標としている。これまでのSTMによる観察により、表面第一層はPt原子で覆われており、その原子配列はバルク終端ではなく、2x2超構造であることが示されている。しかしながら、STMで観察された原子サイズの凹凸は原子配列そのものであるとは必ずしも結論できず、STM像シミュレーション等の電子状態計算との比較が必要である。そこで、本年度は第一原理計算による電子状態計算を行った。計算で最適化された構造は、これまで報告されている計算結果とは矛盾がないことが分かった。一方、これまでの実験結果では、STM像は探針ー表面距離に大きく依存し、その最適化原子配列から期待されるような単純な像になっていない。そのような場合、これまでのSTM像シミュレーションでは、探針ー表面距離依存性を十分に議論することが難しかった。そこで、DFTプログラム開発者と協力しそれを計算可能とする機能を完成し、探針ー表面距離が大きな場合のSTM像を再現することができた。これまでの実験結果の詳細と計算結果の一部は、3つの国際会議で発表した。そのうちの一つは招待講演である。また、実験のための試料作製準備を整え、試料を超高真空中で作製しそのまま測定できるような共同利用施設を利用できるように、各施設の現状を調べた。また、STM実験の準備として、名古屋大学の研究協力者の低温STMを整備した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、電子状態解明のための第一原理計算を進めた。STM像を解釈するための電子状態計算が完了し、STM像シミュレーションの改良により実験結果と比較できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
第一原理計算によるSTM像シミュレーションをさらに進め、実験結果との比較を行う。現在の近似の範囲で計算が不十分の場合は、さらに電子相関を取り入れた計算を研究協力者とともに進める。実験研究として試料作製を行い、試料準備室が整備された共同利用施設において、各種電子分光測定実験を順次進めていく。その測定結果と電子状態計算の結果を比較しながら研究を行う。清浄なPt原子層で表面を覆われたCePt2単原子層での研究が終了したあとで、水素、アルカリ金属、一酸化炭素や酸素が吸着したPt表面層をもつ試料を用いた研究を開始する。Pt(111)面でのこれらの吸着はよく知られているので、本系の表面Pt単原子層への吸着状態は、LEED、STM、軟X線電子分光および第一原子計算を用いて調べ、Pt単結晶表面での結果と比較検討する。吸着構造を明らかにした後、これら試料のフェルミエネルギー付近の電子状態を高エネルギー分解能の各種ARPES/ SARPESを用いて調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4度前半はコロナ感染状況の悪化から、共同利用施設を利用した実験の実行可能性も不透明であった。そこで、第一原理計算による電子状態計算を中心に研究を行い、試料作製準備だけを行った。令和5年度は消耗品を購入し、試料作製からSTM/ARPES測定までを行う計画である。また、令和4度はコロナ感染状況によって海外出張を行わなかったが、令和5年度は、情報収集のためにも国際会議に出席する計画である。
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