研究課題/領域番号 |
22K03491
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
江上 喜幸 北海道大学, 工学研究院, 助教 (20397631)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 第一原理計算 / 電子輸送特性 / Xene / 大規模計算 / シリグラフェン / キャリア移動度 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、Xeneと呼ばれる原子層状物質からなる大規模なヘテロ構造おける電子輸送特性について研究を進めている。当該年度においては、そのための基礎研究として、原子層状物質における構造計算と電子状態計算、およびキャリア移動度について、第一原理シミュレーションを用いて解析を行った。 具体的な対象物質として、グラフェンをベースにシリコン原子をドープしたシリグラフェンと呼ばれる層状物質に注目し、その中でも高いキャリア移動を示すことが期待されているSiC_6シリグラフェンを対象とした。先行研究では、2次元SiC_6シートについての研究はされているが、ナノリボン化した場合の特性についてはあまり研究されていない。デバイス応用の側面から、有限サイズにおける特性を明らかにすることは重要であり、グラフェンと同様にナノリボン化によって特性が大きく変化することが期待される。ここでは、ナノリボン化する際のリボンの切り出し方向、エッジ構造やリボン幅に依存した幾何構造、電子状態変化について解析を行った。これらの結果をもとに、室温を仮定した音響フォノン散乱の影響下におけるキャリア移動度について評価を行った。 その結果、2次元シートでは非常に高い値を示した電子移動度が、ユニットセルと同程度の幅にナノリボン化した系では1/20程度に低減していた。一方で、ホール移動度についてはは5倍程度にまで向上することが分かった。これは、ナノリボン化によって変形ポテンシャルや弾性係数が大きく影響を受けたことが要因と考えられる。また、zigzag方向に比べ、armchair方向の移動度の方が全体的に大きく、armchair方向にはグラフェン由来の炭素六員環が連なっており、非局在化したπ軌道が大きく拡がっているためと考えられる。 今回得られた知見を元に、ヘテロ接合構造やヘテロ積層構造を取ることで、これらが電子輸送特性に与える影響について明らかにしていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のとおり、当該年度においては、原子層状物質Xeneについての基礎研究として、SiC_6シリグラフェンを対象として、ナノリボン構造における幾何構造、電子状態、キャリア移動度について重要な知見を得ることができた。またこれらが、機械的歪みによって大きく変調できることも示し、さらにはエッジ構造やリボン幅による依存性についても解析を行った。網羅的なシミュレーションを行うことは現実的ではないため、代表的な構造をピックアップし、これらの結果から共通するファクターを帰納法的に見出した。ナノリボン構造については、ほとんど先行研究の例がなく、新たな知見を示すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、Xeneと呼ばれる原子層状物質からなるヘテロ構造(ヘテロ接合構造およびヘテロ積層構造)を対象とし、大規模電子輸送特性シミュレーションを行うことで、次世代電子デバイスに有用な物質や構造についての探索を行うことを目的としている。当該年度の研究成果として、前述のとおり、SiC_6シリグラフェンからなるナノリボン構造における基礎的な知見を得ることができた。 次年度以降は、ヘテロ接合構造における電子輸送特性解析を主眼としいた研究を推進する。ここでは、組成の異なるシリグラフェンやグラフェンなどから、格子整合しやすいモデルを選択し、疑似的なリボン構造を形成することを考え、このときの幾何構造や電子状態、輸送特性について解析を進めることで、さらに知見を深める。また、当該年度の研究では限定的なモデルしか扱えていなかったが、強束縛近似モデルを併用することにより、キャリア移動度の変調におけるキーファクターの精査を行う。これらにより、ヘテロ接合構造における輸送特性を制御する支配的ファクターを明らかにすることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費として計上した予算でクラスター計算機を3台購入予定であったが,昨今の半導体不足および円安の影響を受けて単価が上昇したため,購入台数を減らさざるをえず,大きな差額が生じた. 代替措置として,大型計算機センターのスパコンを利用することで,不足する計算機リソース分を補うため,研究の遂行には影響しない. 次年度の助成金と合算して,スパコンの利用経費やダウンロードするデータ記録用のHDDの購入費等に充てる.
|