研究課題/領域番号 |
22K03495
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島田 賢也 広島大学, 放射光科学研究センター, 教授 (10284225)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 角度分解光電子分光 / ノンシンモルフィック空間群 / スピン軌道相互作用 / 隠れたスピン偏極 / 量子多体相互作用 / 準粒子 |
研究実績の概要 |
本研究では、らせん操作および映進操作(グライド操作)に関する対称性をもつノンシンモルフィック空間群に含まれる結晶構造を持ち、強いスピン軌道相互作用が働くことにより隠れたスピン偏極が期待される化合物単結晶を作製し、高分解能(スピン)角度分解光電子分光(ARPES)により、そのフェルミ面・バンド構造・スピンテクスチャを実験的に明らかにする。またベイズ推定を用いた新たなARPESスペクトル形状解析プログラムを開発し、フェルミ準位近傍の準粒子状態を支配する量子多体相互作用〔電子-格子、電子-電子、電子-不純物(格子欠陥)相互作用〕を系統的に定量化し、マクロ物性を一電子近似を超えた多電子描像で理解することを目的としている。 令和4年度の研究成果としては以下のとおり。 (1) ベイズ推定を用いたARPESスペクトルの解析プログラムの開発をすすめ、ビスマス系銅酸化物高温超伝導体(Bi2201)に適用した。実験で得られたフェルミ面形状を強束縛近似で解析することにより一電子バンドを決定し、ARPESスペクトルから電子-格子、電子-電子相互作用に由来する自己エネルギーのモデル関数を特徴づける10個のパラメータを非経験的に決定できた。 (2) 典型的なトポロジカル絶縁体Bi2Te3の単結晶を作製し、そのトポロジカル表面電子状態の温度依存性をARPESにより詳細に調べた。電子-格子相互作用に由来するバンド分散の折れ曲がり構造は観測されず、電子-格子相互作用は極めて弱いことがわかった。またディラック点から測ったエネルギーに依存して電子-格子結合定数が変化することが初めて明らかになり、第一原理計算との比較から、その大きさが散乱チャンネルの数に比例することが明らかとなった。この研究成果論文のプレスリリースを行い、科学新聞、Science Japanで取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
放射光ビームラインの電子エネルギー分析器の入れ替えに伴う測定槽の磁気シールドの手直しを行った。またベイズ推定を用いたARPESスペクトルの解析プログラムを開発し、ビスマス系銅酸化物高温超伝導体(Bi2201)に適用して自己エネルギーを特徴づける10個のパラメータを非経験的に決定できた。典型的トポロジカル絶縁体Bi2Te3のトポロジカル表面準位の電子ー格子相互作用の結合パラメータを決定し、その大きさが散乱チャンネル数と相関していることを解明した。この研究成果をPhysical Review B(Letter)誌で公表し、プレスリリースを行なった。研究計画で記載したことは概ね実施でき、研究成果も得られているため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) トポロジカル絶縁体Bi2Te3にCuをドープすると超伝導を示す。令和4年度に単結晶作製を行い、粉末X線回折、電子線マイクロアナライザを用いた組成分析、磁化測定を行った。粉末X線回折では不純物相は存在しなかったが、組成分析ではCuの仕込み量に比べて実際の量は少ないことがわかった。3.6Kで超伝導転移を確認できたが、超伝導になっている体積割合は低かった。紫外線レーザーを用いたARPES測定を行ったところ、照射中にスペクトル形状が急激に変化し、データ取得に至らなかった。紫外線照射により構造が不安定になると判断されたため、令和5年度はノンシンモルフィック空間群に属する結晶構造をもつ別の超伝導体を作製し、ARPES測定を試みる。
(2) 令和4年度にノンシンモルフィック空間群に属する反強磁性マンガンカルコゲナイド単結晶を作製し、粉末X線回折、電子線マイクロアナライザを用いた組成分析を行った。令和5年度は清浄表面作製を行い、そのバンド構造を(スピン分解)ARPESにより明らかにする。ARPESスペクトルの定量的形状解析により、電子-電子相互作用に由来する自己エネルギーを抽出し、サテライト構造の起源を明らかにする。
(3) ビスマス系高温超伝導体については、ベイズ推定を用いたスペクトル形状解析により、双極子遷移行列要素の波数依存性の影響が明らかとなった。今後、遷移行列要素の影響を考慮した量子多体相互作用の定量評価を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度の物品費が想定よりも節約できたため、4390円繰り越しとなった。令和5年度の物品費もしくは旅費として使用する予定である。
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