研究課題/領域番号 |
22K03498
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
下出 敦夫 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (20747860)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピンHall効果 / スピンNernst効果 |
研究実績の概要 |
スピンHall (Nernst)効果はスピン軌道相互作用を通じて電場 (温度勾配)と垂直にスピン流が流れる現象として理解されており,情報を担うスピンを電気的に (排熱を用いて)運ぶことを可能にすることから応用上も重要である.しかし理論的には,スピン軌道相互作用がある系ではスピン流を一意的に定義することができないので,これらの現象をスピン流の応答係数であるスピンHall (Nernst)伝導度によって記述することに物理的な意味はない.実際,Rashba型のスピン軌道相互作用をもつ系に電場をかけると端でスピン蓄積が観測され,スピン流が変化したものと解釈されているが,スピンHall伝導度は厳密に0となることが知られており,この解釈は誤りである.さらにスピンNernst伝導度に関しては,線形応答理論では絶対零度で発散してしまい,物理的な結果を得ることができない. そこで私は端におけるスピン蓄積に着目し,電場 (温度勾配)の勾配に対するスピンの応答として再定式化を行った.スピン流と異なりスピンは常によく定義されており,電場 (温度勾配)の勾配は端でピークをもつため,これらの応答は端のスピン蓄積を記述すると期待される.まずスピンHall効果に関して,スピンHall伝導度が0になる上述の系において,スピン蓄積が観測されたという実験結果と整合する非零の応答係数を得た.さらにスピンNernst効果に関して,時間反転対称性があり,相互作用が無視できる場合には,電場勾配に対する応答係数との間にMottの関係式が成り立ち,絶対零度では0になることを示した.本研究によってスピンHall (Nernst)伝導度に代わる物理的に意味のあるスピン-電荷 (熱)変換効率が定式化された.これらは散逸を特徴づける緩和時間を除いて第一原理的に計算することができ,実験的に観測可能なスピン蓄積と比較することができる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
PIの異動に伴い,教員公募の書類作成や自身の異動準備に時間をとられたため.
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今後の研究の推進方策 |
スピンHall (Nernst)効果に関して重要な知見が得られたので,研究計画を変更し,磁気スピンHall (Nernst)効果の理論の構築を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大や異動により,研究成果を発表するための学会に参加することが困難であったため,次年度使用が生じた.子のワクチン接種が進まないため次年度も同様であると考えるが,最終年度には学会に参加する予定である.
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