研究課題/領域番号 |
22K03501
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
柳澤 達也 北海道大学, 理学研究院, 教授 (10456353)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 拡張多極子 / 奇パリティ / 強磁場 / 超音波 / 四極子 / 交差相関 / アシンメトリ量子 |
研究実績の概要 |
空間反転対称性が破れた系において活性となる奇パリティ拡張多極子の秩序が理論提案されている。マクロ・ミクロ両方の実験的証拠を積み重ねることが喫緊の課題であることを鑑み、本研究では奇パリティ多極子が活性であると考えられる候補物質の超音波測定を試みた。金属化合物中の局所的な電気応答から電流 ・磁場などの軸性の外場を用いた交差相関現象を通して未解明の秩序変数の対称性を解明することが眼目である。初年度は自発的に反転対称性を破る相転移の秩序変数として電気トロイダル四極子が提案されるCd2Re2O7と、局所反転対称無きウランを含むURhSnの未解明の非磁性秩序相について超音波測定を行った。 Cd2Re2O7は先行研究から本系のマクロ物性応答を正しく理解する上でドメインの制御が肝要であることがわかっており、強磁場によってそのドメインの単一化が実現できる可能性が示唆されている。 URhSnは当初計画にはなかったが、近年基礎物性測定から電気多極子秩序の可能性が考えられているため、超音波測定によるその検証実験を急遽研究計画に加えた。 既存の超音波装置を用いた予備実験を行うとともに、これと並行して超音波用一軸圧力セルや、二軸ゴニオ回転機構を搭載した超音波測定用プローブの装置開発を行っている。本年度は、2CHのステッピングモータコントローラとステッピングモータ及びドライバ、プラスティックギア等を購入し、PPMSに搭載可能なゴニオメータの設計と、同軸線のインピーダンス整合、リークチェック、温度計校正などの予備測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドレスデン強磁場研究所との共同研究により、Cd2Re2O7について、Γ5対称性の歪み感受率に対応する横波弾性定数C44を磁場H || [001], 55 Tのパルス強磁場下において1.4 -4.2 Kの温度範囲で測定した。その結果、C44は30 Tまでゆるやかにソフト化し、より高磁場では一定値に収束する振る舞いを示した。同時に本物質で初めてとなる音響ドハース振動を観測した。得られたドハース振動数はこれまでに報告されたフェルミ面のうち極値断面積の比較的小さなものに対応する。国際共同研究により達成された本成果は、次年度も継続してマグネットタイムを許可された重要な成果である。 URhSnは東北大金研の共同研究者から単結晶試料の提供を受け、北海道大学のPPMSを用いて2 K, 14 Tまでの温度・磁場領域で超音波測定を行った。その結果、本系が示す2つの逐次相転移のうち、四極子秩序が提案されている高温側T~54 Kの相転移においてOyz, Ozxの四極子感受率に対応する横波弾性定数C44にソフト化を観測した。異なる対称性のOxyに対応するC66にはソフト化が現れないことから、秩序変数の対称性が絞られる。二軸ゴニオプローブが未だ稼働に至っていないため、当初予定していた磁場回転効果の検証は次年度に持ち越されるが、四極子秩序とその対称性に関する傍証が得られたことは、今後の磁場中実験による発展が期待できる重要な成果である。 尚、当初研究計画にあったCeCoSiは、隠れた秩序に向かって降温に伴い弾性定数C44のソフト化を示すが、薄膜状試料の測定が困難を極めており、未だに論文出版に相応しいデータは得られていない。しかし、3度の一軸圧下測定を試行したところ、隠れた秩序の転移温度が圧力印加に伴い上昇する振る舞いを観測している。次年度以降、当初の目的の電流下測定を試行錯誤できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ドレスデンでパルス強磁場実験に成功したCd2Re2O7について、ヘリウム3冷凍機を用いて更に低温におけるパルス強磁場実験を行う予定である。また、Γ5対称性の弾性定数C44モードだけでなくΓ3対称性の(C11-C12)/モードの測定を行い、対称性の観点から秩序変数を議論する。 URhSnは電気四極子秩序と目されている秩序相内において,本研究では周波数依存性を伴う磁場に鈍感な超音波分散を横波弾性定数C44, 縦波弾性定数C33モードで発見した。現象論的解析から、揺らぎの時定数と活性エネルギーがわかる。昨年度,他研究者によって報告された放射光実験とNMRによる秩序変数の予想から,秩序相内においてSnの原子配置に不安定性が生じることが予想されており,上記の振る舞いと対称性はその予想とも矛盾しない結果である。今後は電流印加等によってその超音波分散や、秩序相内の弾性応答に交差相関現象に起因する非相反応答が現れるかどうかを検証する。 装置開発の開発では、二軸ゴニオプローブの開発を継続し、磁場下での回転実験ができるようにする。令和5年度に採択された別プロジェクトにて導入予定の、PPMS用トップローディング型二軸ゴニオプローブの立ち上げも並行して行い、二台体制でURhSn, UNi4B, URu2Si2, UBe13等における交差相関現象の探索を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度前半は新型コロナウイルスの余波がまだ収束しておらず、主に国内での共用設備のマシンタイム短縮分が未使用分として生じた。次年度以降の研究の推進方策に基づいて、未使用分を執行する予定である。
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