研究課題/領域番号 |
22K03505
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
壁谷 典幸 東北大学, 理学研究科, 助教 (70633642)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 希土類磁性体 / 結晶場固有状態 / フラストレーション / 磁気多量体形成 / クラスター多極子 / 強相関系物理 |
研究実績の概要 |
令和4年度の研究実績として、研究計画調書に基づき、①高対称結晶中の低対称サイトにおける希土類結晶場固有状態の実験的決定手法の確立、②Ce2Pd2Pbの部分秩序状態の実験的な証明、および③Ce3Ag4Mg12における磁気構造の解明およびその関連物質の探索を行った。本研究の中核をなす、①の決定手法については、計画調書作成後に発表した論文にて、正方晶化合物Ce2Pd2Pbにおける直方対象Ceサイトに対する結晶場固有状態の解析手法を報告した。本年度の研究の進展として、新たに東北大学多元物質科学研究所との共同研究を行い、中性子回折実験により固有状態の磁気モーメントの異方性を確定することで、マクロ測定から2つに候補を絞られていた結晶場固有状態の決定に至った。②の部分秩序状態については、報告した結晶場固有状態の性質を用いた極低温磁場中比熱測定結果の解析により、その発現を証明するに至った。今後はこの物質の異方的な磁気モーメントの性質により発現が期待される分数励起状態の探索を行う。③のCe3Ag4Mg12については、反強磁性転移温度における常磁性的な帯磁率の起源の解明のため、共同研究者とともに中性子散乱実験を行い、その起源に迫るうえで重要な結晶場固有状態の情報を得た。今後は磁気構造の特定と秩序パラメータの特定を行う。関連して、この化合物の元素置換系の探索を行い、単結晶育成の報告のなかった化合物の単結晶化に成功した。これらの成果は当初の予定以上の進展である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
直交ダイマー構造を持つ正方晶化合物Ce2Pd2Pbにおいて発現する部分秩序状態は、スピノン的分数励起状態を発現する化合物Yb2Pt2Pbと同様の性質であると期待されるが、これらの性質と磁気モーメントの異方性の関係は明らかになっていなかった。本年度の研究では、研究計画の段階で我々が見出つつあった、Ce2Pd2Pbにおける部分秩序状態を実験的に立証するため、極低温における比熱測定を行い、結晶場固有状態の磁気的性質を利用して解析した。さらに、我々の提案する手法で候補を絞り込まれた結晶場固有状態の特定のため、中性子回折実験を行った。これらの実験により、Ce2Pd2Pbにおける部分秩序状態の存在の証明と、その状態における磁気モーメント配列の概要が明らかになった。この成果は、マクロ測定を用いる本手法に対して、中性子回折などのミクロ測定を相補的に適用することの有用性を証明するものである。また、多量体形成およびクラスター多極子秩序状態を発現する物質の探索のため、R3M4X12(Rは希土類、Mは銀や金等の遷移金属元素、XはMgやAlなどの典型金属元素)の探索を行い、これまで多結晶合成のみが報告されていたNd3Ag4Mg12の単結晶育成を世界で初めて成功させた。さらに、本年度の研究では、研究代表者らの提案した結晶場固有状態の決定手法を応用し、中性子回折実験の結果を元に六方晶結晶中に直方対称のCeサイトを持つCe3Ag4Mg12の結晶場固有状態の特定を行った。本研究により、これまで実験的に決定することが不可能であった低対称サイトを持つ希土類においても、結晶場固有状態の特定が一般的に可能となったことは、今後の希土類磁性体の研究を推進するうえで非常に重要な進展である。これらの成果には、当初予想していなかった進展が多く含まれる。そのため、現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に他の研究者らによって発表された論文により、R3Ag4Mg12の全ての希土類(つまりランタンからルテチウムまで)の結晶構造が報告された。この論文では多結晶を用いた結晶構造が報告されたが、その磁気的特性や単結晶の育成報告はない。これを受けて本研究では、これらの化合物の単結晶育成を試みた。現在までにNd3Ag4Mg12の単結晶育成に成功しており、今後は多量体形成を発現する物質を特定することを目的に、他の化合物育成および磁気的特性の調査を行う。Ce3Ag4Mg12に対しては、この物質が発現する異常な帯磁率の振る舞い(反強磁性転移温度における特定の軸方向の帯磁率の常磁性的な振る舞い)の起源を明らかにするため、中性子回折実験によるミクロな磁気モーメントの情報と、磁化、帯磁率、そして比熱から得られるマクロ物性の性質を矛盾なく再現する結晶場固有状態の特定を行う。この物質における異常な振る舞いは通常の磁気双極子秩序ではなく、三つ組みの磁気モーメントが形成するクラスター多極子の自由度による多極子秩序状態の可能性もあるため、その検討を行い、これらの結果を今年度中に論文にまとめる。さらに、Ce2Pd2Pbにおける部分秩序状態の発現を論文にまとめ報告する。この物質の磁気構造と部分秩序状態の関連を明らかにし、期待される分数励起状態を探索することが重要である。そのため、現状よりも大型の単結晶を育成し、共同研究者と協力して中性子非弾性散乱を行う。また、本研究で育成された化合物を用いて、一軸歪による磁気モーメントの制御や、磁気構造による時間及び空間反転対称性の破れによる金属磁性体における交差相関の研究を進展させることを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
円安の進行により、当初予定していた物品の購入に対して不足したため、次年度の予算と合算して使用することとした。繰り越し分は主に試料原料およびるつぼ材料に用いる予定である。
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