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前年度に引き続き研究実施計画に示した「1次元3He薄膜流体、朝永ラッティンジャー液体は実現するか」に関する研究を実施した。孔径2.4nmの1次元細孔に希薄な3Heを吸着した場合、1次元流体領域でのみ、朝永ラッティンジャー(TL)液体の典型的な振る舞いである、温度に反比例するスピンスピン緩和時間が観測されることをこれまで我々が示してきたが、非縮退状態でも似た振る舞いが観測されることなどから、TL液体の決定的な証拠としては認められていない状況にあった。 本研究では当初未知の異常な熱流入のため冷凍機を十分冷却できないという問題を抱えたため計画が大幅に遅れてしまったが、前年度末にようやく問題を解決し、令和6年度は実際にフェルミ温度以下までのスピン拡散係数の測定によって、非縮退領域と縮退領域の相違の検出を試みた。前年度の研究結果として純粋に3He流体の1次元的な運動が反映されるのは、T2程度の短時間である可能性が示されたため、磁場勾配の強度を以前の3倍以上に強化し、スピンエコー法による拡散の観測を行った。その結果、スピン緩和と整合する高温域における熱励起型の拡散運動を観測したほか、拡散係数がフェルミ温度付近で最小値をとるTL液体の特性と合致する振る舞いが示唆された。これは1次元3Heのスピン拡散の初めての直接測定であり本研究の成果の一つとしてあげられる。一方で、フェルミ温度以下の低温域ではスピン緩和、拡散ともに温度変化が非常に小さく、過去の実験結果を再現しなかった。多孔体基盤の表面積の見積もりに誤差があるため、今回新調した多孔体量が少ない試料セルでヘリウム吸着量にずれが生じたのがその原因として推測される。現在、多孔体量を増やした試料セルを作成しヘリウム吸着量の調整を系統的に行う準備をしており、それによりTL液体的なスピン緩和の機構をスピン拡散から検証する実験が完結する予定である。
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