研究課題/領域番号 |
22K03511
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木田 孝則 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (50452412)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 多重極限環境 / パルス強磁場 / 高圧力 / 鉄系超伝導体 / BCS-BECクロスオーバー |
研究実績の概要 |
本研究では、50テスラを超す強磁場と高圧力を組み合わせた多重極限環境下での物性測定装置の開発を大きな目的としている。強磁場の発生は、研究代表者の所属機関に既設の非破壊型パルスマグネットと大型コンデンサーバンクにより可能である。一方、高圧力の発生は目標とする圧力により、ピストンシリンダー型(2ギガパスカル程度)、対向アンビル型(4ギガパスカル程度)、ダイヤモンドアンビル型(10ギガパスカル程度)を使い分ける。圧力セルの構成部品の多くは金属製(Cu-Be合金、Ni-Cr-Al合金やステンレス)であるため、パルス強磁場中ではそれらの部品に誘起される渦電流がジュール発熱を引き起こし、精密測定を阻害してしまう。予備実験として用いた、最も金属量の多いダイヤモンドアンビル型圧力セルでは、圧力保持に必要なステンレス製のガスケットが試料の直ぐ近くにあるため、パルス強磁場の発生直後から顕著な温度上昇が観測された。当該年度で最も進展のあったのはピストンシリンダー型圧力セルを用いた測定であり、Ni-Cr-Al合金製のシリンダーからのジュール発熱はあるものの、試料まわりの圧力媒体およびテフロンチューブによる熱伝達の阻害がその影響を抑制していることがわかった。これにより、インダクタ-・キャパシタ-(LC)共振回路を用いた、50テスラ、2ギガパスカルの磁場-圧力範囲での磁化率測定を可能にした。この装置をフラストレート量子磁性体CsCuCl3に応用し、この物質の飽和磁場に至る磁場範囲での磁場-圧力相図を明らかにし、米国物理学会が発行する「Physical Review B」誌に論文発表するとともに、国内外でのいくつかの会議において発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
10ギガパスカル程度の圧力発生を目指すダイヤモンドアンビル型圧力セルでは、パルス強磁場発生時に誘起される渦電流により、金属製の構成部品からのジュール発熱の影響が顕著であった。そこで、当該年度は、到達圧力が2ギガパスカル程度に低くなるが、ピストンシリンダ型圧力セルを用いたパルス強磁場・高圧力下物性測定装置の開発に重点を置いた。まずは、圧力セルの新規に設計・開発し、パルス強磁場中でのジュール発熱の影響を調べ、LC共振回路を用いたパルス強磁場・高圧力下磁化率測定技術の確立に取り組んだ。磁性絶縁体であるCsCuCl3において、50テスラ、2ギガパスカルの磁場-圧力範囲での同測定を可能にしたが、目的とする鉄系超伝導体への応用には至っておらず、進捗状況としてはやや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度に取り組んだパルス強磁場・高圧力下での物性測定では、LC共振回路を用いた磁化率測定技術の開発を行った。これに加えて、次年度は電気抵抗測定、電流・電圧特性測定および表面インピーダンス測定の技術開発にも取り組み、鉄系超伝導体のFeSeに応用する。また、圧力範囲を拡大するために、非磁性・非金属のジルコニア製のアンビルと非金属ガスケットを用いた、4ギガパスカル級の対向アンビル型圧力セルの開発に着手する。ジュール発熱の効果を抑制するためには非金属ガスケットの新規開発が必須であり、これまで予備的に、パイロフィライト(葉ロウ石)や強化プラスチック、ガラス繊維質エポキシ樹脂などを用いた非金属ガスケットの作製を試みており、今後、圧力発生の限界やジュール発熱の影響などを調べていく予定である。さらに、当初の目的であるFeSe系超伝導体の圧力-磁場-温度相図を明らかにし、この物質の超伝導ギャップの圧力依存性とBCS-BECクロスオーバーの関係についての知見を得る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「高速デジタイザーモジュール(NI-PXIe-5170)」の納期が確定しなかったため、当該年度内での購入を断念し、次年度に購入する計画へ切り替えた。この装置の導入により、測定感度の向上が見込まれる。
|