研究課題
本研究では、50テスラを超す強磁場と高圧力を組み合わせた多重極限環境下での物性測定装置の開発を大きな目的としている。強磁場の発生は、研究代表者の所属機関に既設の非破壊型パルスマグネットと大型コンデンサーバンクにより可能である。一方、高圧力の発生は目標とする圧力により、ピストンシリンダー型(2ギガパスカル程度)、対向アンビル型(4ギガパスカル程度)、ダイヤモンドアンビル型(10ギガパスカル程度)を使い分ける。圧力セルの構成部品の多くは金属製(Cu-Be合金、Ni-Cr-Al合金やステンレス)であるため、パルス強磁場中ではそれらの部品に誘起される渦電流がジュール発熱を引き起こし、精密測定を阻害してしまう。予備実験として用いた、最も金属量の多いダイヤモンドアンビル型圧力セルでは、圧力保持に必要なステンレス製のガスケットが試料の直ぐ近くにあるため、パルス強磁場の発生直後から顕著な温度上昇が観測された。当該年度で最も進展のあったのはピストンシリンダー型圧力セルを用いた測定であり、Ni-Cr-Al合金製のシリンダーからのジュール発熱はあるものの、試料まわりの圧力媒体およびテフロンチューブによる熱伝達の阻害がその影響を抑制していることがわかった。これにより、インダクタ-・キャパシタ-(LC)共振回路を用いた、50テスラ、2ギガパスカルの磁場-圧力範囲での磁化率測定を可能にした。この装置を量子磁性体(CsCuCl3、CsFeCl3、Ba3CoSb2O9)に応用し、この実験手法が磁性絶縁体の圧力下における磁気相転移の研究に有効であることを示した。Review of Scientific Instruments誌に論文発表するとともに、国内外でのいくつかの会議において発表した。
3: やや遅れている
当該年度は、ピストンシリンダー型とは別に対向アンビル型の圧力セルの開発にも着手した。アンビルには非磁性・非金属で高硬度材料のジルコニア(FCY20)を用いた。圧力発生空間に接するキュレット面にはくぼみ加工を施し、その反対面にラテラルサポート構造を取り入れることで圧力の発生効率を高める工夫をした。一般的な対向アンビル型の圧力セルでは、圧力空間を封止するガスケットに金属が用いられるため、パルス強磁場下では磁場掃引時に誘起される渦電流によるジュール発熱が精密測定を困難にする。そこで、パイロフィライト(葉ロウ石)および繊維強化プラスチック(F.R.P.)を用いた非金属ガスケットの作製し、圧力発生試験とパルス強磁場掃引時の圧力発生(試料)空間における温度計測を実施した。グリセリンを圧力媒体として用い、鉛(Pb)の超伝導転移温度をもとに圧力を較正した。圧力セルを液体ヘリウムに浸した状態では、パルス強磁場の大きさが最大となる時間(約12ミリ秒)まではジュール発熱に影響はほとんど観測されなかったが、ガスケットの機械的強度に起因して発生圧力が2 GPa程度に頭打ちとなることがわかった。この圧力発生技術に係る試行錯誤の結果、目的とする鉄系超伝導体への応用には至らなかった。
当該年度は、主にパルス強磁場・高圧力下でのLC共振回路を用いた磁化率測定技術の改良と対向アンビル型圧力セルの開発を行った。次年度は対向アンビル型圧力セルのガスケットとして、高硬度・高抵抗材料のNiCeAl合金型や、非金属(パイロフィライトあるいはF.R.P.)と金属(NiCrAl合金)の材料を組み合わせたコンポジット型のガスケットを作製し、圧力発生の限界やジュール発熱の影響などを調べていく予定である。これに加えて、電気抵抗測定、電流・電圧特性測定および表面インピーダンス測定の技術開発にも取り組み、鉄系超伝導体のFeSeに応用する。さらに、当初の目的であるFeSe系超伝導体の圧力-磁場-温度相図を明らかにし、この物質の超伝導ギャップの圧力依存性とBCS-BECクロスオーバーの関係についての知見を得る。
前年度に購入できなかった「高速デジタイザーモジュール」を購入したが、円安による価格高騰のため、当初この装置に充てていた予定額を大きく超えてしまった。その結果、本研究に係る他の消耗品等の購入の調整に支障が生じ、少額ではあるが次年度使用額が生じた。
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