研究課題/領域番号 |
22K03512
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
榊原 寛史 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (20734354)
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研究分担者 |
渡部 洋 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 研究員 (50571238)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超伝導 / 銅酸化物 / ニッケル酸化物 / 高温超伝導 / 電子相関 / 第一原理計算 / 揺らぎ / 磁性 |
研究実績の概要 |
2023年に発見された、高圧下ニッケル酸化物超伝導体La3Ni2O7及びLa4Ni3O10に対して理論研究を行った。これらはそれぞれ2層及び3層の2軌道ハバード模型(dx2-y2軌道及びd3z2-r2軌道で構成される)に帰着される。本研究では第一原理計算バンド計算及び最局在ワニエ軌道法に基づいて、2軌道有効模型を導出し、揺らぎ交換近似と呼ばれる電子多体効果のシミュレーション手法を有効模型に適用することで超伝導の解析を行った。その結果、La3Ni2O7及びLa4Ni3O10は層の間でクーパー対を形成するs波超伝導状態であることが解明された。また、線形エリアシュベルグ方程式の固有値λという値を計算した。同一温度で計算したλの値は超伝導転移温度(Tc)の定性的な指標であり、値が大きいほどTcが高いと言える。このλの値を同一手法で求めた銅酸化物高温超伝導体(Tc=40-135 K)と比較した結果、La3Ni2O7(Tc~80 K)はほぼ同程度であり、La4Ni3O10(Tc~25K)は下限に近い。このことから、ニッケル酸化物において実験的に観測される転移温度を理論計算で再現できたと結論付けた。La3Ni2O7についてはキャリアドーピング以外の方法で転移温度を高める理論指針を示した。また、La3Ni2O7は実験的報告の直後に理論研究を開始したが、La4Ni3O10については超伝導発現の実験的な報告に先駆けて理論計算を行っていた。La4Ni3O10は後にNIMSの高野グループらの実験によって超伝導発現が実証されたため、本研究は超伝導の理論物質予言研究であると位置づけられる。銅酸化物やニッケル酸化物などのいわゆる、非従来型超伝導の物質予言の成功例は世界的に見てかなり少なく、本研究は画期的な結果だと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高圧下ニッケル酸化物超伝導体La3Ni2O7の超伝導対称性がs波超伝導であることを解明し、また物質設計に応用できそうな物理パラメータを特定することもできたため、今後の研究方針の基盤を得ることができた。また、La4Ni3O10という新しい非従来型超伝導体の超伝導転移を理論計算に基づいて予言し、後に実験系研究グループにより転移が実証されたため、画期的な成果と言える。以上より、研究最終年度の開始を待たずして、十分大きな成果が得られているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ニッケル酸化物超伝導体La3Ni2O7のTcは80 Kほどであり、超伝導体一般の中においてとても高い部類だが、超伝導の実現には最低10GPa以上の高い圧力が必要である。超伝導の学理解明のためには様々な角度からの実験的解析が肝要であるが、高圧の困難はこれを阻害する。学理解明の遅れは分野の発展を阻害する原因にもなる。そこで本研究ではこの困難を克服するため、低圧あるいは常圧での超伝導実現を目指し、理論的物質探索を行う。常圧相では電荷秩序あるいは電荷密度波と思われる何らかの秩序状態が超伝導を阻害していると考えられるため、まずは常圧の秩序状態を解明する。また、これらの秩序状態の安定化は構造相転移と連動していると考えられる。超伝導状態の結晶構造は正方晶である一方、非超伝導の構造は斜方晶であるから、斜方晶転移と秩序状態の関連性について、解明を目指す。得られた知見に基づき、低圧あるいは常圧で正方晶が実現する物質を理論的に探索する。安定な結晶構造の推定には第一原理バンド計算やフォノン計算を利用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
渡部氏の分担金の残額が極めて少額となってしまったため、次年度繰越した。本年度の分担金と合わせて有効利用する予定である。
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