研究課題
UTe2は強磁性相関が強く常圧下において発現する超伝導はスピン三重項状態であると考えられている。直方晶のb軸方向に磁場によって増強される超伝導や磁場誘起超伝導相、圧力下で現れる超伝導多重相と磁気秩序などエキゾチックな物性が次々と発見されており、大きな注目を集めている。本研究では、実験と理論から盛んに研究が行われているスピン三重項超伝導体UTe2の超伝導多重相の秩序変数、圧力誘起磁気秩序に加え、圧力下の結晶構造相転移、新しい圧力誘起相などを明らかにすることを目的としている。今年度の主な研究実績とその概要は以下の通りである.1.当初UTe2は気相成長法により作成していたが、NaClとKClを用いたフラックス法による試料育成がより有効であることがわかり、UTe2の純良単結晶育成に成功した。2.SQUID素子を用いた磁化測定装置で使用する小型圧力セルを改良し加圧テストを行った。UTe2は0.3 GPa以上で超伝導多重相を示し、2 GPa以上で圧力誘起磁気秩序が発現する。これらを磁気特性から明らかにするための圧力セルを製作している。3.UTe2の高圧下におけるx線回折実験を行い圧力下で構造相転移が起こることを明らかにした。常圧では空間群Immmの直方晶であるUTe2が室温で圧力をかけていくと約3 GPa以上で空間群I4/mmmの正方晶に結晶構造相転移することがわかった。4.UTe2の高圧下における電気抵抗測定から、3 GPa以上の高圧下で約230 Kの新しい相転移とTSC=2Kの圧力誘起超伝導が出現することを明らかにした。これは圧力誘起構造相転移にともない電子状態が大きく変化したことを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、UTe2で発現するスピン三重項超伝導、超伝導多重相、圧力誘起超伝導相など多彩な超伝導状態についての知見を得るとともに、それに付随する様々な性質などをあきらかにしていくことを目的としている。今年度は、UTe2の圧力誘起構造相転移を発見し、それに伴う、230 K付近の新たな相転移や2 K以下の新しい圧力誘起超伝導相スピン三重項超伝導多重相の超伝導/磁気特性を見いだすなどUTe2 の高圧物性に関する研究を進めた。ウランは核燃料物質に該当し、少量の場合でも国際規制物資として、その使用や取扱は法律によって制限されている。本研究課題を進めるために、九州大学での核燃料物質、国際規制物資の使用目的や方法の変更や新たな使用室を設定するなど法律に乗っ取った手続きなども進めており、次年度において本課題の大きな目的の一つであるUTe2の点接合分光を行うことが可能となった。以上のことから本研究は当初の計画通り概ね順調に進んでいると考えている。
UTe2の常圧下での点接合分光を行い、超伝導ギャップの測定を行う。また高圧下点接合分光測定用圧力セルの設計・製作を行う。UTe2の圧力下磁化測定を行い圧力誘起相転移の起源を調べる。関連物質であるUTeSeやUTeAsなどの高圧下物性、さらにUCuP2やUCu2P2などのウラン化合物強磁性体の量子臨界性の探索などを行っていく。
点接合分光や磁化測定装置の3Heシステムで使用する圧力セルについて設計・製作を行っている。非常に精密な部品となるため設計上の検討すべき事項が多く、また製作に時間がかかるためこれらの制作費などが次年度使用額となった。また、国際共同研究のための海外渡航を予定していたが、新型コロナウィルス感染症対策の影響により海外渡航が容易でなかったため、次年度に行うこととした。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 92 ページ: 043703-1-4
10.7566/JPSJ.92.043703
巻: 92 ページ: 044702-1-10
10.7566/JPSJ.92.044702
巻: 91 ページ: 063703-1-5
10.7566/JPSJ.91.063703
巻: 91 ページ: 114708-1-8
10.7566/JPSJ.91.114708