研究課題/領域番号 |
22K03517
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
松田 達磨 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (30370472)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | カイラル / 単結晶 / 量子振動 / フェルミ面 / 超伝導 / ドハース・ファンアルフェン効果 |
研究実績の概要 |
カイラル構造を持つ2元系化合物TrX4 (Tr: Rh, Ir, X: Ge, Sn)の高純度単結晶育成を行った。この物質系はいずれも同型の結晶構造をとり,空間群#152および#154に対応する三方晶系のカイラルな結晶構造をとる. α-RhSn4およびα-IrSn4については,Snフラックス法による単結晶育成を行った。結晶育成条件の最適化によりα-IrSn4については,結晶の純良性を表す残留抵抗比が1250に達する極めて純良で単一ドメインの単結晶を育成することに成功した。IrGe4では,テトラアーク炉を用いたチョクラルスキー引き上げ法による単結晶育成を行い,RhG4については,高圧合成法を用いて行った。これらの高純度単結晶に対して,メンブレン型メカニカルセンサーを用いた精密な磁気トルク測定を温度1.5 K, 磁場12T までの範囲で行い,磁気トルクにおける量子振動(ドハース・ファンアルフェン効果)測定を行った。この量子振動の解析からフェルミ面のサイズとトポロージーを明らかにすることに成功した。 カイラル構造を持つ金属間化合物のフェルミ面研究例は少なく,世界的にみても我々の研究成果は貴重な研究成果といえる。本研究によってフェルミ面の極値断面積の角度依存性において特徴的な対称性を示すことが明らかになったが,このことは,三方晶系(空間群#152および#154)の対称性としてはじめて実験的に確認されたことである。 またIrGe4およびRhGe4については,低温において超伝導状態を示すことを明らかにした.カイラル物質系で超伝導を示す系の報告は,極めて限られており,さらに単結晶が得られているものは少ない.カイラル構造を持つ物質での超伝導状態における対波動関数の対称性の研究や,また超伝導状態を通して,物質系の特徴的な物性応答がどのように影響するのか等についての研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗は,実験に必要な単結晶育成の進展に大きく依存する。現時点において,研究対象とする物質の高純度単結晶育成及び, 実験に必要なサイズの単一カイラリティ単結晶を取り出すことに成功している。加えて, フェルミ面観測に必要な実験装置の立ち上げも順調に進み実験が開始され,初年度に予定していた研究内容をほぼ遂行できている状況にある。ただし, 次年度以降の研究推進に向けた物質開発及び精密輸送特性測定システムの整備については,一部の作業がのこされており,研究を計画通りにすすめるために,急ぐ必要がある状況。また, 本年度の実験において研究対象における超伝導状態の発見があり, これらの特性に関連した新たな研究課題も見つかった。このことから,それらの研究課題についても並行してすすめることが必要であることから, 今後研究スピードを上げる必要があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
4年計画で実施をしている研究内容に対し,初年度の研究成果を踏まえた上で,改めて研究計画を見直し,効率的な実験研究の推進をはかる。特に, 研究対象とする物質系については, 初年度の研究における試行錯誤を通して絞られてきている。まず初年度のTrX4 (Tr: Rh, Ir, X: Ge, Sn)系のフェルミ面研究が順調にすすんだことから,これらの物質系において,非相反電気磁気効果の実験可能な精密測定装置の整備をすすめてゆく。また, IrGe4およびRhGe4については,超伝導状態の対波動関数に関する研究について推進する。物質開発としては, TrX4系との比較研究を考慮しつつ他の非磁性カイラル物質で研究対象を選定する。一方で磁性元素を導入した物質系についての結晶合成試行を開始する。いずれも対称性の低い晶系においては,目的とするカイラル構造由来の現象を特定し辛くなることから,なるべく正方晶系以降の空間群として対称性の高い物質系を選定しながら行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
差額の生じた最大の要因は,備品購入を見送ったことにある。当初計画案では,初年度に設備備品費として「低温2軸回転プローブ」の作成にあたる予算145万円を計上していたが,製作発注を予定していた企業からの見積もりにおいて,制御系装置に使用する半導体部品がコロナ感染症による複合的影響で手に入らず,年度内の納期設定が難しいとのことで,初年度の発注を見送った。また,その他実験に必要な消耗品である金属材料購入については,世界の情勢不安からくる貴金属材料の異常な高騰が続いたことから,予算の有効な利用を検討した結果,初年度における購入を断念し,所属研究室の在庫と関連研究室からの材料サポートにて対応した。 上記の理由から初年度に見送った物品購入について,次年度以降,研究計画に支障のないように適宜購入を検討する。
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