研究課題/領域番号 |
22K03521
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
市村 晃一 北海道大学, 工学研究院, 教授 (50261277)
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研究分担者 |
黒澤 徹 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (10615420)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有機超伝導体 / 走査トンネル顕微鏡 / 強相関電子系 / 超伝導 / モット絶縁体 |
研究実績の概要 |
有機導体kappa-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの単結晶を電解法で作製した。原料試薬の精製過程を増やすことにより試料の良質化を行った。得られた単結晶試料はX線回折により当該化合物であることを同定したうえで、電気抵抗と磁化率の温度依存性を測定し電子物性を評価した。 作製された単結晶試料に対し超高真空STMを用いて、室温と8 KにおいてSTM/STS測定を行った。今回は100 nm角程度広範囲なSTM測定で表面の平坦さを評価したのち、STS測定を重点的に行った。室温でのSTS測定では±300 meの範囲内でトンネル微分コンダクタンスの減少が見られたが、フェルミ準位付近では有限の値であった。フェルミ準位での状態密度は有限であるものの状態密度スペクトルは単純な金属とは大きく異なる。これは前年度の結果と同様である。また、室温では場所による本質的なスペクトルの変化はなかった。 一方、超伝導転移以下の8 KにおけるSTS測定では±400 meVの範囲で微分コンダクタンスはほぼゼロであり大きさ約800 meVのギャップがあることがわかった。このギャップはモット絶縁体ギャップに対応するものと考えられる。場所によっては、このギャップ構造の内側の-300 meV付近での微分コンダクタンスの増大が見られた。 広範囲に場所を変えて測定したが、今回は超伝導ギャップは見いだせなかった。この原因は、80 K付近の冷却速度が比較的速かったためと考えられる。これにより超伝導の体積分率が減少したため、STMで超伝導相の領域にアプローチできなかったと推測している。また、モット絶縁体相の領域がSTMスキャナーで走査できる範囲より大きかったためと考えられる。今後は、冷却速度のより精密な制御を工夫する。また、ステージの移動機構の導入を検討することにより広範囲での測定を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分担者との共同実験がほぼ予定通りに行え超高真空低温STMを用いた実験に着手できた。
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今後の研究の推進方策 |
試料の冷却速度を精密に変化させることで不均一性の制御を試みる。引き続き10 K以下の超伝導相においてSTM/STS測定を行う。ステージの移動機構の導入を検討し、より広範囲にわたる状態密度マッピングを目指す。不均一な超伝導状態において、詳細なSTS測定により超伝導相とモット絶縁体相との空間的な境界での電子状態を観測することで、超伝導に対する電子相関の役割に関する知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
大きな理由は前年度からの繰り越しがあったためである。この繰り越し分は今年度の低温STM実験での消耗品(STM探針、寒剤(液体ヘリウム、液体窒素))で使用したが、実験の効率化により予定回数を行っても使用額を減らすことができた。次年度は低温STM実験の機会を当初予定より増やす計画であり、実験の際に消耗されるSTM探針や寒剤(液体ヘリウム、液体窒素)の使用の増加が見込まれる。これにより当初計上分と合わせ当該残額を使用予定である。
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