研究課題
本研究では、スピントロニクス材料の有力な候補であるハーフメタル型Co及びMn基フルホイスラー合金に対し、電子構造と磁気秩序構造の詳細を放射光分光測定により解明することを目的としている。初年度において特に高エネルギー光電子分光、及びX線吸収磁気円二色性測定(XAS-MCD)に焦点を当て研究を推進した。フェリ磁性体Mn2VAlに対する軟X線光電子分光により、Fermi準位近傍の電子構造はMn 3d成分が支配的であることを示し (学会発表1件)、角度分解光電子分光(ARPES)により明瞭なバンド分散およびフェルミ面を得ることに成功した。また、磁場中における硬X線光電子分光が測定機構を整備し、Co2MnSi及びMn2VAlの遷移金属(TM)2p内殻準位に明瞭な磁気円二色性(HAXPES-MCD)を見出した(学会発表3件、うち国際会議招待講演1件)。このMCD信号は磁性を司るTM 3d軌道の有効磁場による2p内殻準位のゼーマン分裂とスピン偏極に由来する。これまで申請者等は、2p内殻のスピン偏極を利用したスピン偏極電子構造観測手法として、磁場中共鳴非弾性X線散乱(RIXS-MCD)を開発・提案してきたが(国際会議招待講演1件、解説記事1件)、本研究の結果はRIXS―MCDの原理を実験的に裏付ける重要な成果といえる。以上に加え、ハーフメタル 型ホイスラー合金Co2MnSiの2p吸収スペクトルに現れる広域X線吸収微細構造(EXAFS)に磁気円二色性(MEXAFS)を見出し、分光理論グループとの共同研究により多重散乱理論を用いた解析手法の開発を推進した(学会発表2件)。
3: やや遅れている
予期せぬ放射光施設のビームラインの光源系の不調により、予定していた軟X線ARPES分光実験とMEXAFS実験が実施できなかったため、計画に若干の遅れが生じている。軟X線角度分解光電子分光(SXARPES)装置を有するビームラインについては、昨年度中に新しい光源に更新されたため、現在は利用実験を遂行できる状態にある。このため、今年度においてSXARPESを重点的に実施する予定である。なお、研究代表者らは新しい光源系に更新したビームラインにおけるSXARPES装置の性能評価実験の一部に参画した。その際に新しい光学系を利用した試験実験に最適な系として、Au-Ga-Ce近似結晶等に対する角度積分光電子分光測定を実施し、多数の学会発表に繋がる成果を得た。一方で、MEXAFS実験を予定していたビームラインについては、残念ながら現時点では復旧の目処が経っていない。このため、今後は既に測定済みの高精度データを用いた解析手法の高度化を主眼に置いた研究計画に変更する予定である。相補的研究として計画していた磁場中HAXPESについては、HAXPES-MCDの測定に成功する等、大きな進展があった。さらに、研究を推進するために必要なHAXPES装置の高度化に際し、ホイスラー合金系に加え、量子臨界現象を示す強相関希土類化合物や、特殊な結晶構造を有する希土類系近似結晶の実験においても研究が展開し、共同研究として論文発表(2件)およぼ国際会議等で発表を行った。以上を総合すると、当初の研究計画に対しては若干の遅れがあるものの、概ね順調に推移していると思われる。
今後の研究展開として、ハーフメタル型Co及びMn基ホイスラー合金(Co 2MnSi,Mn2VAl)のバンド構造とフェルミ面の3次元精密測定を推進するべく、SXARPES実験を遂行する。また、磁場中HAXPESの高度化をさらに推進し、光源の最適化、自動測定機構を開発し、微小MCD信号の高精度測定手法の開発を推進する。今年度の研究において、2p内殻ホールのスピン偏極が実証されたため、磁場中RIXSの研究を推進する。また、硬X線領域のRIXS実験への展開を計画している。MEXAFS測定については分光理論グループとの共同研究を推進し、解析手法の高度化を推進する。
予定していた放射光施設における実験が、予期せぬ実験装置の不調により実施できなくなったため、当初計画していた出張実験の旅費、及び施設利用料に未使用分が生じたことにより次年度使用額が生じた。繰り越した助成金は、本年度参加を予定している国際会議の参加費及び旅費に充当する。
RIXS-MCDに関する解説記事H. Fujiwara, and R. Y. Umetsu, SPring-8 Research Frontier 2021, 52 (2022)
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 8件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Physica B: Condensed Matter
巻: 649 ページ: 414465~414465
10.1016/j.physb.2022.414465
Japanese Journal of Applied Physics
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http://www.spring8.or.jp/pdf/en/res_fro/21/052-053.pdf