研究実績の概要 |
量子相転移とは、圧力や元素置換による電子数などをパラメーターとして、温度変化により起こる通常の相転移ではなく、絶対零度で起こる相転移のことをいう。一般的な量子相転移は、磁気秩序相と非磁性相を横切るときにおこるが、磁気秩序を伴わないタイプの量子相転移も提案されている。申請者はこの磁気秩序を伴わない、量子相転移を検出するうえで、磁歪と熱膨張が有効であることを見出してきた。そこでまず初年度は、申請者がドイツのアウグスブルグ大学で習得した静電容量法による磁歪・熱膨張測定法を所属研究室に導入した。静電容量法による測定の利点は、強相関4f電子系に必要な極低温強磁場下でも可能である。 具体的には、ドイツのKuechler社に製作を依頼した直径1cm程度の変位計を用いて、それを研究室の希釈冷凍機および3He冷凍機に設置した。測定の対象物質として、本研究対象であるYbCo2Zn20を選定した。YbCo2Zn20は0.3 K以下の磁場依存性おいて、0.6 Tで重い電子状態の変化に伴うメタ磁性に加え、磁場を[111]方向に印加した時にのみ、6Tで磁場誘起の相転移を示す。0.1 Kでの磁歪測定の結果、これら二つの異常を検出し、特に磁場誘起相の相転移は磁化で検出したものよりもはるかに明瞭に検出された。加えて磁場中熱膨張の測定から検出した磁場誘起相転移の飛びの大きさから、一軸圧効果を見積もったところ、他のRT2X20(R:希土類, T:遷移金属, X:Zn,Al,Cd)と比べてはるかに大きな一軸圧効果が期待されることを明らかにした。
|