研究課題
二次元伝導系に特徴的な電荷集団励起である”音響プラズモン”は、これまで電子ドープ系銅酸化物高温超伝導体の軟X線非弾性散乱(RIXS)測定によってのみ観測されてきたが、ホールドープ型銅酸化物高温超伝導体La2-xSrxCuO4(LSCO)においても酸素K吸収端でRIXS測定を行うことによって音響プラズモンを観測した。ホールドープ系で伝導を担う酸素pホールの集団励起が、酸素K吸収端を利用することによって強まったものと考えられる。擬ギャップ形成機構として最近提案されている電子の分数化機構を検証するために、Bi2Sr2CaCu2O8+d(Bi2212)の酸素K吸収端および銅L吸収端でRIXSを測定し、電子の分数化を表す “二成分フェルミオン・モデル”による解析を行った。最適ドープ試料の超伝導点移転の上下で(擬ギャップ相と超伝導相で)RIXSスペクトルの巨大な変化を見出し、擬ギャップ相のない過剰ドープ試料ではスペクトルは温度変化しなかったことから、巨大な温度変化が擬ギャップの形成によることがわかった。さらにその温度変化は、電子の分数化を表現した二成分フェルミオン・モデルで説明できた。一方、他の擬ギャップ形成機構として提案されているネマチック秩序も検討したが、微量ドープ領域では相図を説明できないことがわかった。また、上記の二成分フェルミオン・モデルを含む銅酸化物高温超伝導体の理論研究の多くでは、より現実的なCu 3d軌道と酸素p軌道を含む”3バンド・ハバード・モデル”ではなく、簡単化された1バンドのハバード・モデルが用いられてきた。1バンド・モデルの正当性と両ハバード・モデルの関係を定量的に理解するために、両モデル間でパラメータを変換する簡易な方法を物理的考察に基づいて導いた。
2: おおむね順調に進展している
コロナが収束して台湾への渡航が通常通りに回復し、放射光実験および国立清華大学との共同研究が予定通り行われた。論文執筆は一部に遅れはあるものの、概ね予定通りに進行した。国際学会での成果発表も、オンライン、直接参加ともに予定通り行われた。
今後、銅酸化物高温超伝導体における電荷の分数化と整合する高温超伝導の発現機構を、系統的な共鳴非弾性X線散乱(RIXS)および角度分解光電子分光(ARPES)実験により明らかにしていく。具体的には、RIXSスペクトルの温度依存性、ホールドープ量依存性、物質系依存性、入射X線エネルギー依存性を系統的に調べ、並行して共同研究者が進めているモデル計算、第一原理計算との比較を行う。高温超伝導・擬ギャップに深く関連する現象として、電荷密度波形成とその動的揺らぎ、クーパー対密度形成、それらの量子臨界点的振舞を調べる。Zhang-Riceエキシトンを含む高エネルギー・エキシトン励起、電荷励起の一種である2マグノン励起など多様な電子状態・電子励起を解明する。
国内学会がオンライン開催になったので次年度使用額が生じた。次年度に、国内学会・国際会議参加費として使用する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件) 備考 (3件)
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