研究課題
本研究は、コロイド粒子ゲルの固体物性を調べることを目的とする。特に本年度は、非平衡ゲルに焦点を当てて研究を実施した。分子動力学シミュレーションを用いて、以下の結果を得た。(1)レナード・ジョーンズポテンシャルによって模擬した粒子系を、気体・液体共存相の領域内で温度ゼロにまでクエンチすることによって、気体相と液体相の相分離過程が凍結した、非平衡ゲルを生成した。(2)得られたゲルに対して、構造解析を行った。一般的な構造解析の手法として動径分布関数や静的構造因子を計算するとともに、フラクタル構造の解析を行った。その結果、ゲルにはフラクタル構造が広がっていることを明らかにし、かつそのフラクタル構造のフラクタル次元、および特徴的な長さスケールを計測した。(3)線形応答理論を用いて、ゲルの弾性率を計算した。その結果、ゲルの極めて柔らかい弾性特性が、非アフィン変形によって実現されていることを明らかにした。(4)振動解析を行い、ゲルの固有振動状態を求めた。その結果、ゲルの柔らかい弾性に起因して、低周波数モードが大きく発達していることが分かった。また、これら低周波数モードはフォノン的な振動を示すことも明らかにした。特に興味深いことに、ガラスでみられたボゾンピークや局在化振動といった非フォノン振動がゲルでは観測されず、同じ不規則系であってもガラスとゲルでは大きく振動特性が異なっていることを明らかにできた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、非平衡ゲルと平衡ゲルの2つのタイプのコロイド粒子ゲルの固体物性を明らかにすることを目標に掲げている。その中で、本年度は非平衡ゲルの固体物性を明らかにすることができた。特に、同じ不規則な固体であっても、ゲルはガラスとは大きく異なる物性をもつことを示すことができ、インパクトある成果を残すことができた。成果は国際ジャーナルに論文として掲載された。
非平衡ゲルの固体物性を理解できたので、次は平衡ゲルの固体物性の研究に入る。(1)ファンデルワールスポテンシャルに長距離斥力が働く粒子系を用いて分子動力学シミュレーションを行い、平衡ゲルを生成する。(2)生成した平衡ゲルに対して、構造解析、弾性率解析、振動解析を行い、平衡ゲルのフラクタル構造、固体物性(弾性率、振動特性)を明らかにしていく。(3)得られた結果に基づき、平衡ゲルと非平衡ゲルの違い、あるいは平衡ゲルとガラスの違いに着目しながら、平衡ゲルの固体物性を理解していく。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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