研究課題/領域番号 |
22K03543
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水野 英如 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (00776875)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | コロイド粒子ゲル / 粒子間散逸 / 泡 / エマルジョン / 粘弾性 / 振動状態 / 有効媒質理論 |
研究実績の概要 |
本研究はコロイド粒子ゲルの固体物性を明らかにすることを目的としている。これまでに非平衡ゲルの固体物性を明らかにした。引き続き本年度では、平衡ゲルの固体物性を理解する予定であった。実際に分子動力学シミュレーションを用いて平衡ゲルを再現することに成功した。ところが研究を進めるにあたり、粒子ゲルではフラクタル構造とともに粒子間散逸の効果が重要になってくる認識を得た。粒子間散逸の程度によって生成されるフラクタル構造が異なるとともに、固体物性自身も変わってくる。そこで、まずは粒子間散逸がアモルファス固体の物性に与える影響を理解することを優先すべきであると判断した。粒子間散逸が特に重要になるアモルファス系は泡やエマルジョンであるので、そこで本年度は泡やエマルジョンの固体物性を理解することを目標に設定した。繰り返しになるが、粒子間散逸の効果の理解は、元々の目標であったコロイド粒子ゲルの固体物性の理解に直接的に寄与するものである。したがって、本年度は泡やエマルジョンに焦点を当てて研究を実施し、以下の成果を得た。 (1)泡の粒子モデル(調和ポテンシャルで相互作用する粒子系)の分子動力学シミュレーションを実施して、粘弾性特性、音波伝搬特性を調べた。その結果、粒子間散逸がある系は、それが無いガラスとは大きく異なる物性を示すことを明らかにできた。特に、anomalous viscous lossと呼ばれる異常粘弾性特性が、粒子間散逸によってもたらされることを明らかにした。 (2)ガラスの粘弾性特性、音波伝搬特性を説明する理論に「粒子間散逸」の効果を導入して、泡を記述する理論へと拡張した。拡張した理論は(1)のシミュレーション結果を説明するものである。 (3)さらに、ガラスの固体物性理論として成功を収めている「有効媒質理論」を拡張して、泡の粘弾性特性を説明することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、非平衡ゲルと平衡ゲルの2つのタイプのコロイド粒子ゲルの固体物性を明らかにすることを目標に掲げている。これまでに非平衡ゲルの固体物性を明らかにすることができた。特に、同じ不規則な固体であっても、ゲルはガラスとは大きく異なる物性をもつことを示すことができて、インパクトある成果を残すことができている。もう一方の平衡ゲルの研究に入る前に、本年度は粒子間散逸の効果を研究した。その結果、粒子間散逸がもたらす特有の固体物性を明らかにできた。またガラスの理論に粒子間散逸の効果を組み込み拡張することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
平衡ゲルの固体物性の研究を行う。 (1)ファンデルワールスポテンシャルに長距離斥力が働く粒子系を用いて分子動力学シミュレーションを行い、平衡ゲルを生成する。 (2)生成した平衡ゲルに対して、構造解析、弾性率解析、振動解析を行い、平衡ゲルのフラクタル構造、固体物性(弾性率、振動特性)を明らかにしていく。 (3)得られた結果を下にして、平衡ゲルと非平衡ゲルの違い、あるいは平衡ゲルとガラスの違いに着目しながら、平衡ゲルの固体物性を理解していく。 (4)粒子間散逸の効果に着目して、平衡ゲルと非平衡ゲルの固体物性を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を次年度の学会で発表するためにその旅費として必要となる。
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